「上場ゴール」と揶揄? 持続的な企業価値向上の動機付けが低いこれまでの仕組み

さらに新規上場基準よりも上場廃止基準のハードルが大幅に低いため、上場後も新規上場時の水準を維持する動機付けにならず「上場ゴール」などと揶揄されてきた。上場ゴールとは持続的な企業価値向上ではなく、創業者やベンチャーキャピタルなどが上場によって利益を得ることを最優先にすることを表す言葉だ。実際、上場後に業績が低迷して衰退したベンチャー企業などは多数存在する。

また東証1部に他の市場から移行する市場変更の基準は、東証1部の新規上場基準よりも緩和されている。本来であれば上場後もさらなる企業価値向上を目指すべきである企業に対して、積極的な企業価値向上を促す仕組みとなっていないことなども課題となっていた。

現市場の課題を踏まえて、東京証券取引所は上場会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を目的に市場再編に踏み切った。再編は東京証券取引所が振り分けるのではなく、上場会社自らが希望する市場を選択するという形式が取られた。

今回の市場再編で東証1部に上場する2180社ほどのうちどの程度の企業が最上位のプライム市場に残れるかが注目されていた。だが蓋をあければ東証1部に上場する約8割がプライム市場を選択する結果となり、残る約2割がプライム市場以外を選択した。この状況から、看板を変えただけで現状は何も変わらないのではないかといった批判や骨抜きだとの厳しい声が上がっている。

東京証券取引所は、上場しているすべての約3800社の新市場区分の選択結果を2022年1月に公表。それによると、最上位のプライム市場を選択した企業は1841社だった。スタンダード市場を選択した企業は1477社、グロース市場を選択した企業は459社だった。

プライム市場の上場維持基準を満たすため、ガバナンス改善や流動性向上のための売出、事業ポートフォリオの見直し、親子上場の解消など、流通株式比率などの向上に向けて積極的に動く企業が多かったという。