かけ放題プランで業績を伸ばすも、携帯電話との競争に敗れる

ウィルコムは革新的なサービスを提供し続けてきました。国内で初めて移動端末向けの定額データ通信サービスを始めたほか、MVNO(※)を日本で初めて提供したのもウィルコムです。

※MVNO:Mobile Virtual Network Operator(仮想移動体通信事業者)の略。大手通信会社から通信回線を借り、通信サービスを提供する事業のこと。

特に2005年に開始した「ウィルコム定額プラン」は同社のヒット商品となりました。ウィルコム同士なら月額2900円で音声通話を無制限にできるもので、いわゆる“かけ放題”のはしりです。電気通信事業者協会によると、ウィルコムの契約数は2006年8月時点で400万件を超えるほどになりました。

さらにウィルコムは2006年には国内初のスマートフォンともいえる「W-ZERO3」を展開し、スマートフォン市場の開拓にも乗り出します。NTTドコモやソフトバンクといった巨大な携帯電話大手と競争を続けられたのは、ウィルコムがそれまでにない価値を提供し続けたことが大きいでしょう。

しかし2007年1月、ソフトバンクが同じく定額で音声通話ができる「ホワイトプラン」を発表します。しかも料金は月980円と、ウィルコム定額プラン(2900円)を劇的に下回る水準でした。ホワイトプランは非常に大きな人気を集め、同年12月時点で申し込みが1000万件を超えています。

さらに2007年にはイーモバイルが定額データ通信サービスに参入し、2008年にはソフトバンクが「iPhone」を発売しました。これにより、ウィルコムは3つの強み(定額制のデータ通信・定額制の音声通話・スマートフォン)の全てで優位性を失ったことになります。

結果的にウィルコムは経営に行き詰まり、上述の通りソフトバンクの傘下に収まりました。ウィルコムの例は大手の参入リスクが顕在化した典型といえるでしょう。