ただ、その右肩上がり…果たしてこれからも続く?

筆者が学んできたファイナンシャルプランナー(FP)の修得すべき知識の一つに、キャッシュフロー表というものがあります。これは未来の家計簿なのですが、年単位の収支が将来に向けどうなっていくのかを「見える化」するための表です。

教科書に掲載されているキャッシュフロー表のサンプルには、年収は定年まで定率で上昇する前提で数字を設定するようになっています。また退職金は、60歳で2000万円の一時金があり、いきなり資産残高が増大します。その後は退職金を取り崩しながら、年金生活となるのですが、筆者はどうもこのキャッシュフロー表のサンプルに違和感を覚えて仕方がないのです。

本当に年収って右肩上がりなのか? 退職金ってそんなに大きなお金が受け取れるのか?年金は生活に十分な額なのか? それらを前提に生活設計をして本当に良いのか? 気になって気になってしょうがなかったものです。しかしその後、たくさんのお客様のライフプラン相談を受けるにつれ、意外に多くの方が漠然とこのサンプルのようなキャッシュフロー表を自らの生活設計においてイメージされていることに驚かされました。

ある企業のライフプラン研修に講師として伺った時です。そこでは50歳になる社員たちが一同に集められ、今後の人事制度などについて改めて説明を受け、それを踏まえた自身のライフプランを考えるという研修を受けます。

55歳で役職定年となり年収は概ね3割減、60歳定年で退職金が出るけれど、その一部は確定拠出年金なので、自分の運用次第で金額が変わる、その後継続雇用となると時給制になるといった話が人事から発表されると、会場が一瞬でどんよりとした空気に変わったものでした。

筆者はこのような企業の研修をこれまで数多く請け負ってきましたが、10年前はもっと呑気なものでした。毎日が日曜日になったら、24時間をどう過ごしますか? という講師の問いかけに、参加者は一斉に眼鏡を頭の上にずらし、手元の24時間時計を埋める作業に没頭するといった流れでしたから。

でも、今の50代は先輩と同じような日々が待っていると思ってはいけません。私たちは先輩とは違うんだという認識、さらに同期であってもこれからの生活は横並びではないのだと心得なければなりません。