昨年9月のFD原則改定では、商品が生み出されてからその役目を終えるまで、事業者が責任をもって管理する「プロダクトガバナンス」を確保する観点から5つの補充原則を追加。投資信託などの組成サイドに対し、商品企画時点で、購入することが想定される顧客層を特定して販売サイドに伝えたうえで、その後も情報連携を通じ、実際に想定した通りの層に商品が届けられているかをチェックすることを促しています。
また販売サイドについても、補充原則とは別に既存の項目の注釈を追加する形で、組成サイドと連携してプロダクトガバナンスを確保するよう求めています。
金融庁は以前から、FD原則を採択している事業者のリストを公開し、定期的に更新しています。リストへの掲載を希望する事業者は指定のフォーマットに従って取組方針や実際の取組内容について報告する必要があります。
フォーマットは、原則を構成する各項目について、実施の有無を応えていくスタイル。FD原則自体が改定されて項目数も増えたので、それに合わせてフォーマットを更新すること自体は、当然といえば当然です。
しかし今回公開された新フォーマットや関連文書の中身をみると、FD原則やプロダクトガバナンスの実効性向上に向け、当局として従前よりも強く事業者側に対応を働きかけようとする意識がうかがえます。さりげない変更ながらよく見ると本当はコワい記載を3つ、見てみましょう。
(1)報告と実態のズレがあればリストから「抹消」
今回、金融庁はフォーマット刷新と合わせ、採択事業者リストの掲載要件に以下の通り「留意事項」を付け加えました。
「(略)自らのウェブサイトの掲載内容及び当庁への報告内容については、正確な記載をお願いします。不備が確認された場合には、修正を依頼する可能性があります。
また、原則等に示された内容の実施を宣言しているにもかかわらず取組実態が確認できない状況又は自ら策定した取組方針と取組実態とが著しくかけ離れている状況が認められる場合において、取組実態の改善又は実態に即した取組方針の改訂のいずれかが速やかに行われないときは、当該金融事業者に通知の上、掲載を取り消す可能性があります」
要するに、報告内容と実際の取組内容に大きなズレがある場合には当局として改善を求め、それにも応じない場合にはリストから抹消することもあり得る、と事業側に釘を刺した格好です。
(2)販社向けに新設した「注7」に注意
新たな報告フォーマットでは、組成サイド向けの補充原則だけでなく、FD原則改定で販売会社向けに追加されたプロダクトガバナンスに関する項目(原則6の「注7」)についても、独立した記載欄が設けられ、提出の際には実施の有無を書き込む必要があります。
これまでも金融庁は、報告に形式的な不備がある場合、そのままではリストへの掲載ができないとして注意喚起してきました。投信などの販売サイドにおいては7月までの報告の時点で、組成サイドとの協力を含めたプロダクトガバナンス体制について情報発信が十分かどうか、改めて確認する必要がありそうです。
(※原則6の「注7」「金融商品の販売に携わる金融事業者は、商品の複雑さやリスク等の金融商品の特性等に応じて、プロダクトガバナンスの実効性を確保するために金融 商品の組成に携わる金融事業者においてどのような取組みが行われているか の把握に努め、必要に応じて、金融商品の組成に携わる金融事業者や商品の選定等に活用すべきである」)
(3)パッケージ商品の具体例を強調
FD原則では従前から、複数の金融商品を組み合わせることで同様の投資効果が得られるいわゆる「パッケージ商品」について、顧客に情報提供を促す項目が設けられています(原則5「注2」、原則6「注2」)。
このパッケージ商品をめぐっては、具体的にどのような商品が該当するかについて、当局と事業者の間で認識の齟齬もみられます。新フォーマットでは欄外に「(パッケージ商品の範囲は)各金融事業者において、個別具体的な金融商品等の特性に照らして実質的に判断されるべきですが、複数の金融商品をセット販売する場合に加え、ファンド・ラップ、ファンド・オブ・ファンズ形態の投資信託、仕組債等の仕組商品、外貨建一時払保険等が含まれるものと考えます」との説明を付け加えました。
これまでも当局作成の想定問答集などで同様の記載がありましたが、報告フォーマットの記載欄近くに改めて書き込むことで事業者をけん制する狙いも読み取れます。
新たな報告フォーマットは7月11日の報告期限分から適用されます。