「リテールNo.1」を長期ビジョンに掲げ、特に近年は積極的に改革を行ってきたりそなグループ。2023年度からスタートしたりそなホールディングスの中期経営計画でも「『リテールNo.1』実現への加速」がうたわれ、コーポレート・トランスフォーメーション(CX:企業の根幹からの変革)が強調されているが、今年4月に関西みらいフィナンシャルグループを吸収合併したのもその一環と言えるだろう。これでりそなホールディングスの傘下にりそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらい銀行、みなと銀行の4行が並ぶ格好となり、ガバナンスの強化や効率化を進めるとともに、それぞれの地域や顧客の特性に応じて最適な商品・サービスを提供していく方針だという。
リテール企画とDXを横断するユニークな組織の誕生
りそなグループの中核を担うりそな銀行でも、同じく4月に組織変更が行われ、リテールの企画部門であるライフデザインサポート部にデジタル部門のDX企画部の一部の機能が組み込まれる形で再編された。しかも、同行の各部署はリレーションユニット、デジタルユニット、カスタマーユニット、グループコーポレートセンターの4つに分けられるが、新たなライフデザインサポート部はそのリレーションユニットとデジタルユニットの双方に所属するというユニークな組織でもある。
この新生ライフデザインサポート部の部長に就任した相澤賢哉氏は、組織変更の狙いを次のように話す。「ライフデザインサポート部は個人預金、投資信託、保障性保険、個人向けローンなどを取り扱う商品所管部署ですが、今回の組織変更でDX部門と一体運用を行う形になり、デジタルの力を活用してマスリテールビジネスを深化させることが大きなミッションとなりました」
りそなグループでは早くからDXの推進に注力してきたが、例えば、2018年にリリースした「りそなグループアプリ」は2024年3月に約790万ダウンロード(りそなグループ内、除くみなと銀行)を突破するなど好評を博している。同アプリは「銀行を持ち歩く」がコンセプトなだけに、さまざまな銀行取引機能を順次、追加してきた。そのため、ライフデザインサポート部とDX企画部はこれまでも密に連携してきたものの、「今回の変更で完全に壁がなくなったわけですから、従来以上にデータを活用できるようになり、お客さまとの接点の高度化やデジタル導線の改善なども容易に行えるようになりました」と相澤氏は手応えを語る。
新NISAのスタートもあって、足元では顧客の裾野が急速に広がりつつあるりそな銀行だが、新たな層を取り込み、その満足度を高め、しかも効率性を高めるという点でもデジタルの活用は不可欠。その上で、一定の資産を抱える層には対面でのコンサルティングをきめ細かく提供するのが同行の基本戦略だ。「アプリを中心にデジタルでお客さまとつながり、パーソナライズされた提案を行いながら、ご希望に応じて深いコンサルティングをベースとする特別なリアルな瞬間を実現していきたい」と相澤氏は意気込む。
デジタルの利便性を高めつつ対面という強みを生かす
では、りそな銀行では新NISAをどのように捉え、どう取り組んできたのか。「新NISAのスタートとともに資産形成の裾野がマジョリティー層にも拡大しつつあり、資産運用の機運が高まってきていることを実感しています」と相澤氏は話す。「金融リテラシーが高く、自ら情報を収集し、自ら銀行や証券会社を選択し、自ら取引をする、いわゆるアーリーアダプター層はすでに動いている一方で、今後はそれ以外の方々が取引を始めるステージになるでしょう。つまり、新NISAが気にはなっていても自分で調べるほどでもなく、誰かに教えてほしい、資産形成への一歩を踏み出す後押しがほしいような人たちです。そうした方々にとって最も頼りになる金融機関になることを、私たちは目指しているのです」
具体的な取り組みとしては、Web広告を中心にデジタルでの接点拡大を進め、あわせてWebページの改善をしたことで、その閲覧数は従来の約24倍にまで増加し、すでに資産形成に興味、関心を持っていた層を中心に一定の成果をあげた。その他、紙とメールでのDMの発信、前述のりそなグループアプリへの配信、ターミナル駅のサイネージ広告など、さまざまなプロモーションを組み合わせた効果もあり、2024年1月から3月のNISA口座開設数は昨年の約4倍、積立投信の契約件数も約3倍にまで拡大した。
また、2023年8月には前述のりそなグループアプリに新たな機能「つみたてボックス」を追加。これは資産形成の必要性は感じていても、何から始めればいいのか分からないという層に向けたサポートツールで、目標を設定すると最適な積立プラン(商品・金額・期間)を提案してくれ、達成までの将来シミュレーションを行いながら取引できるというもの。これで投信口座の開設から購入までの手続きはもちろん、目標までの進捗確認、変更や解約もアプリ上で完結できるようになった。2024年5月にはインターネットバンキングの画面をリニューアルし、UI/UXを高めるなど、デジタル施策の展開を行っている。
加えて、デジタルと対面との中間的な位置づけであるリモートチャネルも拡充した。資産形成に特化したアウトバウンドの部隊を新設。電話はもちろん、時にはオンライン面談も実施してフォローしてきたが、一定の成果をあげたこともあり、今後はさらに陣容を拡大させていく方針だ。
「非対面だけでは完結しないお客さまも少なくありませんから、そうした方には来店予約機能などを活用していただき、ご希望のタイミングでご相談いただける体制も整っています。今後はリモートチャネルに加えて店頭窓口も活用し、『デジタル×対面』というリアルチャネルを持つ銀行ならではの強みをさらに生かしていきたいですね」(相澤氏)。
「金利のある世界」では迅速で柔軟な対応が不可欠に
足元ではデジタルの活用を強化するりそな銀行だが、やはりその最大の強みが対面でのコンサルティングにあるのは言うまでもない。特に富裕層に対しては、2020年ごろから総資産管理型営業に取り組んできた。「投資商品の販売一本やりからの脱却を目指し、不動産仲介や事業承継、アパートマンションローンといった幅広い収益の確保に成功しています」と相澤氏は話す(図参照)。それはまた、フルラインの信託機能を備えた日本で唯一の商業銀行である、りそな銀行ならではの取り
組みでもある。
従来はそうした総資産管理型営業もライフデザインサポート部の所管だったが、今回の組織変更に伴い、「企業オーナーや地主といった富裕層に対する渉外中心の提案は、法人・プレミア戦略部や承継ソリューション営業部が受け持つ体制になりました」と相澤氏。
その狙いは多様化、高度化する富裕層のニーズに応えるため、さらに専門性を高めることにあるが、次のステージとして富裕層向けのプロダクトの充実も図っていくという。今年6月には、りそな銀行のコア商品となってきたりそなファンドラップに「資産承継特約」を追加。運用資産を換金することなく次世代に承継できるようになったが、これも富裕層を意識した商品の1つと言えるだろう。
一方のマスリテール層に対しては、店頭販売力の強化に加え、リモートチャネルのサポートにより、従来以上のフォロー体制を構築し、これまで出会えていない新たな顧客層へのアプローチを増やしていく。また、「金利のある世界」となったことで、「預金、資産運用、ローンなどに対するお客さまの考え、指向が大きく変化する可能性がある」と相澤氏は指摘する。「だからこそ、スピード感を持ちつつ柔軟な施策を打ち出せるよう、準備を整えているところです。特にデジタルでのお客さまとの接点については、完成形はないと認識していますから、試行錯誤を積み重ねながら一層の高度化を図っていきたいですね」
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りそなホールディングスはこの7月に、ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ「B.LEAGUE」のタイトルパートナーに就任。10月から始まる新シーズンは「りそなグループ B.LEAGUE 2024-25SEASON」となり、これまであまり接点がなかった層や地域への認知拡大を目指す。りそなグループでは公的資金の注入以降、大々的な露出は控えてきたが、2016年に公的資金を完済したことで、いよいよ本格的な攻勢に乗り出したわけだ。
りそな銀行が目指す、リテールビジネスの在り方とはどのようなものか。「私たちはお客さまの人生に寄り添い、伴走することを目標にしています。資産運用提案は、お客さまの人生に数多くある困り事の解決策の1つにすぎず、ゴールではありません。その他の困り事も解決しつつ、お客さまの人生を豊かにするのが私たちの使命です。それがLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の向上へとつながり、あくまで結果として、収益もついてくるのだと捉えています」(相澤氏)。
再び「金利のある世界」となり、メガバンクなどにもリテール回帰の動きも見られる今、「リテールNo.1」を掲げてきたりそな銀行の真価が問われる時でもあるのだろう。