企業年金と比較して2倍超のリターンに
ちなみに、公的年金であるGPIF以外の「年金投資家」の運用実績はいかなるものだったのでしょうか。
グローバルで資産運用のコンサルティングを手がけるウイリス・タワーズワトソンによると、2020年度の日本の企業年金の運用利回りの平均値は11.4%*1でした。これ自体も2ケタのプラスリターンで近年にない好成績だったのですが、GPIFのリターンはその2倍超。その違いはどこから生じるかといえば、ひとえにポートフォリオに占める株式の保有割合の差にほかなりません。
GPIFの基本ポートフォリオは国内外の債券・株式の「伝統4資産」に25%ずつ均等に配分するというもので、実際の資産配分もほぼ基本ポートフォリオ通りのアロケーションになっています(図3)。つまり、国内以外の株式に全体の50%もの資産を振り向けているわけで、その結果、「合理的バブル」とも称されるコロナ後の超緩和状態のマーケットで、その恩恵を十分に享受できたというわけです。
図3.GPIFの基本ポートフォリオ
出所:GPIF「2020年度業務概況書」
一方で企業年金の平均的な株式保有比率は、世界金融危機以降の10年あまりで年々引き下げられ、足もとでは国内外合わせて2割程度と言われています*2。ボラティリティの大きい上場株式の比率を低く抑える代わりに、多種多様な債券・クレジット戦略の組み入れや、不動産やインフラ、プライベートデットと呼ばれる各種プライベートアセットへの投資を通じて、インカム収益の底上げを図ったり、資産間の分散効果の発揮によるポートフォリオ全体のリスク抑制を図ったりするなど、短期的な下振れリスクを抑えながら長期安定運用を志向することが企業年金の運用のトレンドになっているのです。
ポートフォリオにおける株式配分比率が5割の投資家と2割の投資家では結果が大きく異なるのは当然で、2020年の公的年金と私的年金(企業年金)の運用実績は株式市場のプラスリターンの差が鮮明に出た格好ですが、仮に株式市場がマイナスリターンとなった年には逆の結果ともなるわけです。実際、コロナショックのダメージを受けた2019年度を比較すると、先述の通りGPIFがマイナス5.2%だったのに対し、同じくウイリス・タワーズワトソンの調査によると2019年の企業年金の運用実績の平均値はマイナス1.1%にとどまっています。
*1 ウイリス・タワーズワトソン「日本の年金の 2021 年度 推計運用利回り」
*2 企業年金連合会「企業年金実態調査結果(2019年度概要版)」