7月2日、公的年金の運用を担うGPIFが2020年度の運用実績を公表しました。2020年度の収益率は前年度比25.15%のプラス(年率)で、金額ベースでも同37.8兆円のプラスというもの。これにより、昨年度末時点の運用資産額は186.2兆円、過去の累積リターンも95.3兆円と大きく拡大しました(図1)。

図1.GPIFの運用実績推移

出所:GPIF「2020年度業務概況書」

2019年度のGPIFの運用は収益率がマイナス5.2%、運用額もマイナス8.3兆円と、2015年度以来のマイナスリターンだったわけですが、2020年度は前年度のマイナス分を補って余りあるリターンを稼ぎ出した格好です。

もちろん、国内外株式市場の歴史的な上昇が、驚異的なリターンの牽引役になっていることは言うまでもありません。

この1年あまりのマーケットを振り返ると、2020年2月下旬、新型コロナウイルスの感染拡大が欧米各国に波及しはじめ、世界経済への影響が懸念され始めると、世界同時株安の展開に。それまで史上最高値圏にあった米国株式市場では、2月最終週だけで株価が10%以上も下落。2008年の世界金融危機(いわゆるリーマンショック)以来の急落局面を経験しました。

GPIFも第1~3四半期に積み上げたリターンを2月下旬以降の「コロナショック」によってすべて吐き出してしまい、年度ベースでマイナス運用に転落。ある意味、どん底からのスタートとなった2020年度は、各国政府・中央銀行による過去に類を見ない大規模な財政出動・金融緩和のおかげで、株式市場は一本調子で上昇し(図2)、GPIFの運用実績も一転して過去最大のプラスリターンとなったのです。

図2.2020年度の市場環境―主要インデックスの推移

出所:GPIF「2020年度業務概況書」

企業年金と比較して2倍超のリターンに

ちなみに、公的年金であるGPIF以外の「年金投資家」の運用実績はいかなるものだったのでしょうか。

グローバルで資産運用のコンサルティングを手がけるウイリス・タワーズワトソンによると、2020年度の日本の企業年金の運用利回りの平均値は11.4%*1でした。これ自体も2ケタのプラスリターンで近年にない好成績だったのですが、GPIFのリターンはその2倍超。その違いはどこから生じるかといえば、ひとえにポートフォリオに占める株式の保有割合の差にほかなりません。

GPIFの基本ポートフォリオは国内外の債券・株式の「伝統4資産」に25%ずつ均等に配分するというもので、実際の資産配分もほぼ基本ポートフォリオ通りのアロケーションになっています(図3)。つまり、国内以外の株式に全体の50%もの資産を振り向けているわけで、その結果、「合理的バブル」とも称されるコロナ後の超緩和状態のマーケットで、その恩恵を十分に享受できたというわけです。

図3.GPIFの基本ポートフォリオ

出所:GPIF「2020年度業務概況書」

一方で企業年金の平均的な株式保有比率は、世界金融危機以降の10年あまりで年々引き下げられ、足もとでは国内外合わせて2割程度と言われています*2。ボラティリティの大きい上場株式の比率を低く抑える代わりに、多種多様な債券・クレジット戦略の組み入れや、不動産やインフラ、プライベートデットと呼ばれる各種プライベートアセットへの投資を通じて、インカム収益の底上げを図ったり、資産間の分散効果の発揮によるポートフォリオ全体のリスク抑制を図ったりするなど、短期的な下振れリスクを抑えながら長期安定運用を志向することが企業年金の運用のトレンドになっているのです。

ポートフォリオにおける株式配分比率が5割の投資家と2割の投資家では結果が大きく異なるのは当然で、2020年の公的年金と私的年金(企業年金)の運用実績は株式市場のプラスリターンの差が鮮明に出た格好ですが、仮に株式市場がマイナスリターンとなった年には逆の結果ともなるわけです。実際、コロナショックのダメージを受けた2019年度を比較すると、先述の通りGPIFがマイナス5.2%だったのに対し、同じくウイリス・タワーズワトソンの調査によると2019年の企業年金の運用実績の平均値はマイナス1.1%にとどまっています。

*1 ウイリス・タワーズワトソン「日本の年金の 2021 年度 推計運用利回り」
*2  企業年金連合会「企業年金実態調査結果(2019年度概要版)」

ESG投資も着々と強化

わずか1年で37.8兆円ものリターンを稼いだと聞くと、そんなに株のリスクを取って大丈夫なの? と不安に思う向きもあるでしょう。2019年度の第4四半期にはコロナショックによってたった3カ月間で17.7兆円ものマイナスとなったわけで、過去に短期的に大きなマイナスリターンが発生するたびにメディアでは「巨額損失」「年金消失」といったヘッドラインで報道が批判的になされることもしばしばありました。

もっとも、2020年度第3四半期の運用実績公表を受けた記事(「年金が10兆円増えた」は早合点!? GPIF運用実績報道との正しい付き合い方)でも触れた通り、GPIFは「100年先を見据えた超長期投資家」という姿勢を貫いています。

公的年金ならではの超長期の投資ホライズンで、短期的な流行り廃りや市場のブレに惑わされることなく、ユニバーサルオーナー(広範な資産を持つ大規模なアセットオーナー)として、「負の外部性」と呼ばれる環境問題や社会問題による悪影響を最小限にとどめ、市場全体はもとより社会全体を「より良くする」ことで持続的な成長を享受していこう、というスタンスです。

その投資哲学を象徴する取り組みが「ESG投資」と言えるでしょう。国内外合わせて足もと約95兆円の株式ポートフォリオのうち、国内株式の約93%、外国株式の約88%を指数と連動するパッシブ運用が占めています。もちろん、世界最大規模を誇るユニバーサルオーナーとして、マーケットインパクトも考慮した投資を行わざるを得ず、資産の大部分を、パッシブ運用に配分するのは自然な流れでしょうが、パッシブだからといってただ漫然と市場を丸ごと買って静観しているわけではありません。

時価総額の大きさ以外にESG評価の高い企業をオーバーウェイトしてポートフォリオを構築する「ESG指数」(図4)を複数採用しているほか、2018年にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言にも賛同を表明、TCFD提言に基づいた気候変動のリスク・機会にまつわる取り組みを開示するなど、投資行動・ディスクロージャーの面でも国内はもとより世界屈指の「ESG投資家」として存在感を高めています。GPIFの「2019年度 ESG活動報告」でも詳しく開示されていますので、興味があればご覧ください。(さらに今夏には2020年度の最新レポートが発表される予定です)。

図4.GPIFが採用するESGフォーカスの株式指数

出所:GPIF「2020年度業務概況書」

なお記事中に登場した、「2020年度業務概況書」もご覧になれます。