泥臭い16年間が教えてくれたこと

思わずスマホで証券口座を開く。画面に表示されたのは、資産額よりも先に目に入った円グラフ。株価の上昇によって株式の比率が想定以上に膨らみ、安全資産とのバランスが崩れていた。

「そういえば……そろそろ、メンテナンスの時期だったな」

増えすぎていた株式の一部を売却し、その資金で目減りしていた債券を買い増した。資産配分を本来あるべき姿へ戻す。それは利益を追いかけるための売買ではない。定期点検でタイヤの空気圧を調整するような、自分にとってはごく当たり前のメンテナンスだった。

思えば投資の世界では、「何を買えば儲かるのか」という話題ばかりが注目される。しかし最も大切なことは、その前にある設計思想ではないか。どれだけ利益が出ても、自分が決めたリスクを超えない。相場がどれだけ騒がしくても、設計図を簡単には書き換えない。必要なのは感情ではなく、点検し、整え、守り続けることだ。

この考え方は、16年間の製品開発で身についたものだった。製品開発では、最初から完璧なものができることはない。仮説を立て、試作品を作り、評価し、問題があれば原因を突き止める。そして設計を見直し、もう一度試す。そうして世に送り出した製品も、それで終わりではない。市場の変化や、顧客の使い方によって求められる性能は変わる。その変化を見極め、想定した性能を維持できるよう調整を重ねる。それが設計者の責任だった。

ポートフォリオも同じだ。放っておけば、相場の変化によって資産配分は少しずつ設計図からずれていく。だからこそ、相場を予想することよりも、設計図どおりの姿を保つことを優先してきた。上がったから安心するのでもない。下がったから慌てるのでもない。変化を受け入れ、その都度整える。それが、自分なりの投資との向き合い方だった。

注文を終え、整った円グラフを眺める。しばらくして、ふと気づいた。きれいな円を描くそのグラフの背後には、決して小さくない資産の総額がある。その金額の大きさに改めて目を向けた時、重大な事実に気付いた。

「これって……、今まで自分一人の力で、生み出せたわけじゃないよな……」