先の見えない不調に募る不安

栄司と話をした日から、翔子はなるべく同じ時間に就寝するように心がけた。食事も野菜や肉、魚をなるべくバランス良く取るようにし、食欲がなくてもできるだけ何かを口にするようにして過ごした。休日もできるだけ外に出るようにし、何もない時間は散歩をしたりして、少しでも気分が上がるようなことをするように心がけた。

普段通らない道を歩いてみると、いい雰囲気のカフェがあったり、公園で子どもたちが元気よく遊んでいたりと、いつもの通勤では気付かなかったものが目に入った。そんな中には新しくできたらしいヨガ教室もあり、入り口には体験レッスンを案内する小さな看板が置かれていた。

しかし、そんな生活を1週間ほど続けたものの、効果はまったくなかった。

朝は相変わらず体が重く、仕事中も頭にもやがかかったような状態で、仕事に集中するのに時間がかかるように感じた。いつまでこんなことが続くのか、もしかしたらこの先も良くなることはないのかもしれないと、不安が翔子の中に生まれ始めていた。

重い体のままいつもの電車へ

わかりやすく体調不良ということであれば仕事を休めるのだが、だるさを感じているだけで仕事ができないということはなかった。そのため、朝起きたときにいくら体がだるくても、仕事を休むほどではないなと思ってしまうのだった。

その日も重たい体のまま、翔子は家を出て駅まで歩いた。電車に乗ると、車内は通勤客で混み合っていて、翔子はドアの近くに立った。

電車の揺れで頭が揺さぶられ、酔いそうな感覚になった。いつもはこんなことはないのにと思っていると、急に視界の隅が黒くなった。つり革を強く握ったが、まったく力が入らず、そのまま床にへたり込んでしまった。周囲の話し声や電車の走る音がどんどんと遠のいていった。

「大丈夫ですか⁉」

誰かの声が聞こえた瞬間、翔子は完全に意識を失った。

●お盆休み明けから原因の分からないだるさや食欲不振に悩みながらも、「休むほどではない」と出勤を続けた翔子。夫・栄司にも夏バテだと言われる中、いつもの通勤電車で突然体から力が抜け、そのまま意識を失ってしまった…… 後編【「何それ? 5月病なら聞いたことはあるけど」電車で突然倒れた妻…夫が軽く見ていた“不調の正体”】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。