正式決定前に先走った翔平

数日経っても正式決定の話はまだなかったが、翔平は浮かれた気持ちで日々を過ごしていた。

そんなある日、翔平は同じ会社に勤める同期たちとの飲み会に参加していた。仕事の愚痴や近況を話しているとき、同じ営業部の山下が顔を赤くして質問してきた。

「なあ、翔平、お前なんかあったろ?」

「は? 何が?」

「とぼけんな。ここ最近ずーっとニヤニヤしてるじゃんか。なんかいいことあったんだろ?」

山下の指摘に翔平は眉尻を下げた。

「そんな、別に何もねえよ」

「いやいやもう顔に出てるじゃん。何だよ? 奥さんとなんかあったのか? それとも宝くじでも当たったか?」

山下の話に他の同期たちも興味を持ったのか、好奇の視線が翔平に集まった。

「……まあもうすぐ正式に決まるだろうし、別にいいか」

翔平は独り言のようにつぶやいた。

「お、何だよ? 何があったんだよ?」

「まあ、実は俺さ、今度とある大型案件のプロジェクトリーダーを任されることになったんだよ」

翔平の言葉に山下や他の同期たちから驚きの声があがった。

「マジで! すげえじゃん! 何の案件なんだ?」

「飲料メーカーだよ。しかも超大手な。あーごめん、言えるのはここまでだ」

翔平はそう言ってわざとらしく手で口を押さえたが、そこまで言えば社内の人間なら心当たりがあるはずだった。

「マジかよ。すげえじゃん!」

山下の言葉に翔平はおどけながら同期たちに手を合わせた。

「まあいろいろと大変になると思うからサポートをよろしくな」

翔平がそう言うと、同期たちは大きく拍手をしてくれた。

そこから飲み会は、すっかりお祝いムードになり、翔平は楽しい夜を過ごすことになった。

信じられない言葉

飲み会から2日後、翔平は再び相沢に会議室に呼び出された。いよいよ正式にリーダーを任命されるのかと思い、高揚した気持ちで会議室に入った。

「失礼します」

「ああ。小山くん、この前の話は覚えているか?」

「はい! もちろんです!」

翔平は背筋を正して答えたが、相沢は軽く息を吐いた。なんだか空気が重いような気がする。

「……その件だが、なくなった」

翔平は相沢が何を言っているのか理解できなかった。

「……え? どういうことですか?」

「プロジェクトのリーダーは別の人間に任せることになったよ」

厳しい表情で話す相沢を見て翔平は言葉を失った。

●憧れの上司から大型案件のリーダー候補に推薦され、浮かれていた翔平は、正式決定前にもかかわらず同期との飲み会で案件について話してしまった。その2日後、上司から突然「その件はなくなった」と告げられる…… 後編【「俺、もう無理かも…」決定前案件を自慢して情報漏洩…4年目社員に上司が突きつけた“厳しい現実”】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。