翔平は会議室のドアをノックして入室した。

新卒で現在の広告代理店に入社して4年目の翔平は営業部に所属し、企業側へのヒアリングや制作部門との調整、スケジュール管理などを担当している。

入社4年目に訪れた大きな機会

「失礼します」

「忙しいところ呼び出して悪いな」

会議室には上司の相沢が座っていた。

相沢は数々のコンペを勝ち抜き、大型案件を成功させてきた辣腕で、社内の誰に聞いても一目置かれる存在で、翔平にとっても憧れの上司だった。

促されて腰を下ろすと、相沢は資料を差し出してきた。中身を見ると、それは大手飲料メーカーの資料だった。

通常、営業は1人で1社を担当することが多かったが、その飲料メーカーは付き合いの長い重要なクライアントであることもあり、主担当の相沢に同行して翔平もサポートとして何度も足を運んでいた。

「春に発売される新商品のキャンペーンの相談が具体的に来ていてな。テレビやSNS、動画配信、店頭イベントなど多岐にわたって展開する予定なんだ」

「ようやく決まったんですね」

翔平も聞き覚えのある話だった。

「ああ、ようやくな。それで、今回、この案件のリーダーを誰にするか検討していて、小山くんの名前も候補にあがっている」

「……え? 俺がですか?」

「ああ。私が推薦をしておいた」

翔平は聞き間違いかと思った。

リーダーになればクライアントとのメインの窓口になるだけでなく、社内のクリエイティブ担当や外部の制作会社と連携し、予算やスケジュールを管理しながらプロジェクト全体を進めていくことになる。今まで翔平がやってきた仕事とは規模が違う。まるで比にならないほどの大きな責任を伴う仕事だった。

「小山くんは人と話すのが得意だし、クライアントからの評判もいい。そろそろ責任のある仕事を任せてもいいと思ってな」

翔平は拳を固めて、喜びを抑え頭を下げた。

「あ、ありがとうございます……!」

相沢に認めてもらえていたことを知り、翔平はうれしくなった。

「か、必ずやり遂げてみせます。よろしくお願いします」

「まだ決まったわけじゃないから焦るなよ。まあ、もし任せることになっても、俺や他の先輩たちを頼っていいから、あまり気負わずにな」

「はい!」

翔平は返事をしながら、喜びが表情に漏れ出ていた。

「まあまずは今抱えてる仕事をしっかりやってくれ。具体的な話は正式に決まってからだ」

翔平は頭を下げて会議室を出た。廊下に出るなり大きくガッツポーズをする。

相沢の推薦とあればプロジェクトリーダーを任されるのは決まったようなものだった。4年目にして大型案件のリーダーは完全に出世コースだ。自分がプロジェクトのリーダーだと発表されたときの同僚たちの驚いた顔を思い浮かべて、翔平は思わずにやけ顔になった。