小さな心療内科が入ったビルを出ると、午後の陽射しが思った以上にまぶしく、梨絵は目を細めた。

駅前では、スーツ姿の人たちが足早に行き交っている。ほんの少し前まで、自分もあの流れの中にいるのが当たり前だった。

手にした封筒には、「診断書在中」の文字。書類には、大げさに思える診断名と、しばらく仕事から離れて療養する必要がある旨が記されている。休職期間は3カ月。梨絵は書類をカバンにしまいながら、小さく息を吐いた。

「まさか、私が休むことになるなんて……」

仕事一筋で走り続けた11年間

憧れだった広告代理店に入社してはや11年。同期の中でも昇進は早いほうで、重要な案件を任されることも増えていた。休日は仕事の資料を確認するか、1日中泥のように眠って終わる。プライベートはないに等しかった。それでも仕事で結果を出すことが梨絵にとって何よりの誇りであり、忙しさは自分が必要とされている証だと思っていた。

そんな生活が変わり始めたのは、この春のことだった。

 

「菊池主任、報告書読んだけど、ちょっと自己評価が甘いんじゃない?」

「ですが、去年の同月と比較しても伸びています。評価は正当かと……」

「でもさ、これで本当の意味で成功って言えるかな? もしかしてノルマさえ達成すればいいって思ってる?」

新しく赴任してきた上司は、会議のたびに細かな数字を持ち出して、詰め寄った。

「いえ……そんなことはありません」

「じゃあ、来月はもっと上を目指して。責任者なんだから、それくらいできるよね」

「……はい。すぐに調整します」