「差別だぞ」で黙った
「しかし、あんなに揉めるとは思わなかったよ」
佐藤が疲れきった表情で言った。その日の午前中に初めて参加したミーティングは、想像以上に激しい議論の応酬になったからだった。
「そうなんだよ。たかが服装の話だって思うだろ。ところが、そうじゃないんだよな」
「若手女性社員たちが、目の色を変えて反対してたものな」
「『おじさんの汚いすね毛を見たくない』の一点張りでさ。取り付く島もない」
堂島は焼き魚定食に箸をつけながら続けた。
「ただ、佐藤が来てくれて良かったよ。ビシッと言ってくれたもんな」
「だって、さすがにおかしいと思ったからさ」佐藤がニヤッと笑った。
「男性の短パンがダメなら、女性が足を出すのも禁止するけど、って言われて、さすがの女性社員たちもしーんとなったよな」堂島がいかにも痛快そうに笑った。
「その上、『相手がおじさんなら何でも批判していいのか、差別だぞ』ってお前が言ったから、みんな急に手のひらを返しだした」
「まあ、所詮はその程度の問題だったんだよ。結局、大した根拠もなく反対してただけで」
「とにかくこれで『短パン勤務』はOKってことになったし、経営陣も満足そうだったよ」
すでに焼き魚定食を平らげていた堂島は、店員を呼び止めた。
「アイスコーヒー2つと、白玉ぜんざい2つ」
「ん、2つ?」不審に思った佐藤が堂島に尋ねる。
「今日は俺のおごり」
「若手の女性社員にすっかり嫌われて、その代償が、アイスコーヒーとデザートとはね」
佐藤がやや不満げに口をとがらせる。
「まあそう言うなって。次は俺が泥をかぶってやるからさ」
堂島が笑った。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
