100万円より重い兄弟の絆が崩れ去った
最終的に敏一さんと駿夫さんの相続は、等分で相続する形で話はまとまった。その後、私が改めて遺産分割協議書を作成し、手続き自体は無事に終えることができた。
ただし、問題が完全に解決したわけではない。
なぜなら、敏一さんと駿夫さんの間には、わだかまりが残ってしまったからだ。
敏一さんには、亡くなった我が子が受け取れたかもしれない100万円を否定されたことに不快感を持っている。
駿夫さんには、弟が無理な理屈で100万円を上乗せしようとし、さらに「家庭裁判所に訴える」と脅迫までしてきたことに不信感を拭えなかった。
たった100万円で、半世紀以上も続いた兄弟の信頼関係が崩れ去ったのだ。
もちろん100万円という金額は無視できない額だが、遺産全体から見れば一部に過ぎない。まして、兄弟間の絆の重さに比べれば些細な金額とも言える。
「条件が満たされなかった場合」についても書くべき
勘違いしてほしくないのだが、遺言書に条件を付けること自体が悪いわけではない。
ただ、条件を付けるのであれば、条件が満たされなかった場合にどうするのかまで書くべきだ。
今回のケースでいえば、敏郎さんが就職できなかった場合。あるいは、敏郎さんが亡くなっていた場合に、100万円はどう扱うのか。遺言書にそこまで明記してあれば、話がこじれることはなく、敏一さんと駿夫さんの争いは避けられた可能性が高い。
たとえば、次のように書くこととで今回の争いは回避できたかもしれない。
「敏郎が遺言者の死亡時点で就職している場合には、100万円を遺贈する。敏郎が遺言者より先に死亡している場合、または就職していない場合には、前述の内容は効力を生じず、当該100万円は敏一および駿夫に等分に相続させる」
このように書いておけば、条件が満たされた場合だけでなく、満たされなかった場合の扱いも明確になる。
当たり前のことではあるが、遺言書は、本人が亡くなった後に読まれるものだ。
だからこそ、条件を付けるならば条件が成就した場合だけでなく、成就しなかった場合、成就しないことが確定した場合まで想定しておく必要があるわけだ。
「就職したら渡す」
「結婚したら渡す」
「家を継いだら渡す」
こうした書き方の条件は、一見すると分かりやすく見える。
しかし、人の人生は予定どおりには進まないし、読み取り方も書き手の想定通りになるとは限らない。
もし、読者諸兄が遺言書に触れる機会があれば、それを胸に刻み慎重に向き合っていただきたい。
※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。
