<前編のあらすじ>
恋人・観月との結婚を意識している卓弘。観月は幼いころに両親を亡くし、自分を育ててくれた80歳の祖母・依子と暮らしている。卓弘も依子とは親しくしており、デートの帰りに土産を届けるなど、良好な関係を築いていた。
卓弘が結婚前の同棲を提案すると、観月は膝の悪い依子を1人にできないとして、実家を出ることを拒む。卓弘は観月の実家で3人で暮らすことを受け入れる一方、生活費や部屋の使い方についてルールを決め、依子にも守ってもらう必要があると主張した。
新生活に向けて卓弘は約20万円をかけてベッドや収納棚を購入する。しかし引っ越しを目前に控えた夜、観月から同棲は難しいと電話が入る。さらに観月は、卓弘との関係そのものを終わらせたいと告げた。
●前編【「ずっと考えてたんだけど…」結婚目前で同棲準備を始めた20代カップルが一転、彼女が突然「別れ」を切り出したワケ】
突然の別れを認められない男
電話が切れてからも、卓弘はしばらくスマホの画面を見つめていた。マリッジブルーという言葉が浮かんできた。いろいろと思うところがあって、それがただ爆発しただけだろう。そうでなければ、こんなタイミングで別れを切り出すなんて意味が分からない。
今すぐかけ直して話し合いをしたかったが、時間おいて向こうが冷静になるのを待つほうがいいだろう。そう考えて、卓弘は1日待ってから観月に再び電話をした。観月は電話には出てくれたが、態度を変えることはなかった。
「もうかけてこないでほしいです」
時間をおいても意味がなかったと分かり、卓弘は動揺したが、それでも食い下がった。
「ちょっと待ってくれよ。昨日のあれで納得しろっていうのは、さすがにムチャクチャだ。ちゃんと話をしてくれ。何があったんだ?」
「昨日話したことが全部なの。本当にごめんなさい」
「謝られたって困るよ。理由くらい言ってくれてもいいんじゃないか? 『別れます』『はい、そうですか』なんてわけにはいかない。お互いに大人なんだから、説明責任ってもんがあるだろ?」
卓弘は何とかつなぎ止めようと思った。せめて理由が分かれば、そこから改善する余地があると思った。
しかし、観月は聞く耳をもってくれなかった。
「ふざけるなよ……! 1年以上付き合って、結婚の話までしたんだぞ……! それなのに電話1本で終わらせるなんておかしいだろ……!」
「……悪いとは思ってます。でも一緒に住めば、もう本当に引き返せないと思ったんです。だから別れてほしいんです……」
「だからその理由を言ってくれって……!」
卓弘が思わず声を荒げると、電話は切れた。
その後も何度も電話をかけたが、観月が出ることはなかった。メッセージを送っても既読がつくこともない。最終的に電話をかけても呼び出し音すら鳴らず、留守番電話に切り替わるようになった。ブロックされたと分かった。
「そこまでするのかよ……!」
スマホを握りしめながら、怒りがこみ上げてきた。
なぜ自分がここまで拒絶されないといけないのか、まったく理解できない。こうなれば、直接会って話すしかない。自分から出向かなければならないのは癪だったが、卓弘は観月の実家に向かうことにした。
