義母の秘密を打ち明ける覚悟

美智佳が戻ると、運よくまだ尚之は玄関で靴をしまっていた。

「どうしたんだい?」

「えっと……」

どうやって尚之と話そうかと考えていると、家の奥から芳美が声を張った。扉の開く気配に気づいたのだろう。

「貴弘ー? どうかしたのー?」

焦ったそのとき、美智佳の表情のこわばりを察した尚之が何でもないと家の奥に答えた。

「……お義父さん、少しだけお話ししてもいいですか」

「何か困りごとか?」

「交通費のことなんです」

言葉にすると、胸がいっそう苦しくなった。

「いつも用意してくださるのは、本当にありがたいんです。ただ、毎回いただくのが申し訳なくて、私はここ何回かずっとお断りしていました」

尚之は口を挟まず、続きを待っている。

「それを、お義母さんが自分のものにしているようで……でも、お義父さんには、私たちに渡したと」

告げ口をしているようで、美智佳は視線を落とした。

「お義母さんを責めたいわけではないんです。でも、黙っていると、お義父さんを騙しているみたいで」

しばらく沈黙が落ちた。やがて尚之は、小さく息を漏らした。

「やっぱりそうか」

美智佳は思わず顔を上げた。

「気づいていたんですか?」

「確信はなかったけどな。最近、母さんの財布に妙に余裕があるし、渡したはずの金の話も時々かみ合わなかったからな」

尚之は苦笑したあと、少し表情を引き締めた。

「ただ、美智佳さんがこんなに思いつめてたとは知らなかった。悪かったな。あの場じゃ言い出せなくて当然だ」

責められる覚悟をしていた美智佳の身体から、力が抜けていった。

尚之によれば、芳美は若いころからお金に対する執着があり、会社員として意欲的に働いていたという。だが結婚するとき、尚之の都合もあり、芳美には仕事を辞めてもらった。それ以来、彼女に仕事を手放させたことが、どこか引っかかっているらしい。

「嘘をついていいとは思ってない。でも、家計に響かない範囲なら、あいつの好きにさせてもいいと思ってる。小さいことにいちいち目くじらを立てていたら、40年も一緒には暮らせないよ」

それから尚之は「あいつは俺に内緒でへそくりを貯めるのが趣味なんだ」と、肩をすくめた。

「そう……ですか」

美智佳は完全に納得したわけではなかった。それでも、尚之が何も知らずに一方的に騙されていたわけではないと分かり、しだいに罪悪感は薄れていった。

「まぁ交通費はもうやめよう。今度からは……そうだな、土産を多めに持たせよう。現金じゃなければ、そんなに気兼ねしないだろう」

「気を遣わせてしまってすみません」

「いや、いいんだ。ただし、また困ることがあったら、遠慮せず相談してくれ」

美智佳は静かにうなずいた。

義両親の間には、一緒に過ごした数十年の歳月と絆がある。2人の関係性まで、自分が背負う必要はなかったのだ。美智佳は軽い足取りで義実家をあとにした。