義父が用意した帰省の交通費

間もなく片づけを終えると、芳美は白い封筒を美智佳の前へ差し出した。

「はい、これ。お父さんから」

3年前に結婚して以来、尚之は美智佳たちが帰省するたび、こうして交通費を包んでくれる。直接手渡すのは照れくさいのか、芳美を通して渡してもらうのが、いつからか清水家の習慣になっていた。

これまでありがたく受け取ってきたが、そのたびに美智佳は申し訳なさを感じてきた。自分たちは共働きで、まだ子どももいない。生活にもある程度余裕があるし、なにより食事をごちそうになっておきながら、毎回交通費を負担してもらうのは心苦しかった。

「あの、お気持ちだけで十分です。お義父さんに返しておいてください」

「あら、いらないの」

芳美はそう言うと、迷う様子もなく封筒を引っ込めた。

「じゃあ私がもらうわね」

封筒をポケットへ滑り込ませる。美智佳は冗談かと思って芳美の顔を見たが、彼女はもう別の話を始めていた。

「そうだ、美智佳さん。今度来るときまで覚えてたら、またあの和菓子お願いできる? 前に持ってきてくれたの、お父さんが気に入っちゃって」

「え、ええ……買ってきますね」

夫婦のお金なのだから、嫁の自分が口を挟むことではないのかもしれない。

やがて尚之と貴弘が戻り、4人で玄関へ向かった。靴を履いていると、尚之が何気なく尋ねた。

「母さん、交通費は渡したか」

「ちゃんと渡したわよ」

芳美は間を置かずに答えた。美智佳は反射的に顔を上げたが、その瞬間に芳美と目が合った。口元には笑みを浮かべたまま、目だけが鋭く細められている。

何も言わないで。

そう釘を刺された気がして、美智佳は喉まで出かかった言葉をのみ込んだ。

「今日はありがとうございました。また来ます」

玄関を出ると、すっかり日が暮れ、夕方の涼しい風が吹き抜けた。心地よい空気とは裏腹に、義父を騙したような罪悪感は、いつまでも拭えなかった。