「お手紙を預かっております」

古村翔太の助言通り、圭介はすぐ管理組合の理事の一人にメールを送り、エレベーターであった事件のあらましを報告しておいた。

特に何か対応するという話はなかった。圭介のほうでも、一応念のために報告したまでで、マスク男が誰なのか特定してくれとか、エレベーター内の迷惑行為をもっと注意しろとか、具体的に何か要望するつもりもなかった。

その後しばらくは何も起こらなかったので、圭介も事件のことを忘れかけていたが、1週間ほど経ったある日、再び事件が起こったのだった。

その日は金曜日だったが、仕事が早く片付いたので、圭介は珍しく19時過ぎに会社からマンションへ戻ってきた。

1Fロビーを通過する際、コンシェルジュが挨拶してくる。

ただ、その日の挨拶は少し違った。

「お帰りなさいませ。あ、桂木さま……、お手紙を預かっております」

「手紙?」

「ええ。同じマンションの方から」

それを聞いただけで圭介はなんとなく嫌な予感がした。

マンション内に近所付き合いしている人はほとんどいない。用があるとすれば、あのマスク男しか思いつかなかった。

圭介はコンシェルジュから手紙を受け取ると、ロビーの片隅で読んだ。

ありふれた白い封筒の中に、A4の用紙が折りたたまれて入っている。

手紙にはこう書かれていた

「バイキンをまき散らすバイキンマンへ。お前の部屋を消毒させてもらった」

読んだ圭介の顔が青ざめた。何かひどいトラブルに巻き込まれた予感がして、足が震えている。

「どうかなさいましたか?」コンシェルジュの女性がそう心配して声をかけてくれた。それを無視して、圭介はエレベーターにダッシュした。

「早く家に帰らないと……」