桂木圭介は33歳。大手不動産会社に勤める会社員だ。仕事でタワーマンションの開発に携わったことがきっかけで、タワマン生活に憧れを持つようになった。

一念発起し、都内のターミナル駅付近のタワマンに昨年入居した。まだ独身ということもあり、低層階の1LDKに賃貸で入居したのだったが、「夢のタワマン生活」に違いはなく、桂木圭介の心はうきたっていた。

1Fロビーにはコンシェルジュが常駐し、桂木圭介が出社するたびに「いってらっしゃいませ」と声をかけてくれる。もちろん圭介が帰宅する時にも「お帰りなさいませ」と言って暖かく迎えてくれる。まるでホテルに住んでいるような完璧な対応だった。

セキュリティが万全なこともタワマン居住のメリットを感じる点だった。桂木圭介は一人暮らしで、平日は朝早くから夜遅くまで仕事のため、自宅を開けている時間が長い。以前住んでいたマンションで不審者騒ぎが起きたこともあったので、圭介はセキュリティ面を重視していたが、その点でもタワマンは安心だった。

なにより気に入っているのは、人間関係がドライなところだった。

もちろんタワマンにも自治会があって、夏祭りなどのイベントを運営したり、敷地内の清掃活動も行っている。近所付き合いというものはウエットな関係になりがちだが、タワマンの住人はあまり近所付き合いしない人が多いらしかった。

そうしてタワマン生活を楽しんでいたある日、事件が起こった……。

「やっぱりタワマンの眺めは最高だな……」

「やっぱりタワマンの眺めは最高だな……」

時刻は朝8時すこし前だった。窓の外を眺めていた桂木圭介は、そう言って溜息をついた。

出社前に外の景色を眺めるのが、圭介の日課になっていた。

圭介の部屋は7階で、34階建てのこのタワマンでは低層階のほうだ。窓からの眺望は高層階のそれにはかなり劣る。

ただ、低層階からの眺めでも、桂木圭介にとっては絶景だった。カーテンを開けると林立する高層ビルが目の前に迫ってくる。

「普通のマンションでは決して味わえない景色……」

圭介はそう満足げにつぶやくと、マグカップに残っているコーヒーの残りを飲み干した。

「そろそろ出社するか……」

圭介は時刻を確認した。壁にかけられた時計は8時ちょうどを示している。

会社は同じターミナル駅にあり、徒歩圏内だ。この時間に家を出ても余裕で間に合う。その上、不快な満員電車に乗らずに住むので助かっていた。

ただ、その日の桂木圭介には異変が起こっていた。