子どもの選択を誰が決める

「だって、サッカー始めてまだ1年だぞ。友達がやってるから今度はバスケなんて」

「友達きっかけで興味を持つのは、悪いことじゃないでしょ」

「でも、バスケじゃ将来食っていけないだろ。日本人には限界があるし」

実花は翔太との間に明確な温度差を感じた。7歳の子どもの習い事を、将来食べていけるかどうかで決めるのか。

「サッカーなら食べていけるって話でもないでしょ」

サッカーでもバスケでも、国内外で活躍する日本人選手は大勢いる。もちろんどっちのスポーツを選んだとしても、トップに上り詰めるには血のにじむような努力がいる。そのことだけは、スポーツに疎い実花でもよく分かる。

「……何にせよ今、洋翔に必要なのは、プロになれる競技を選ぶことじゃないでしょ」

「俺は、洋翔のために」

「分かってる。翔太がサッカーを大事にしてきたことも、洋翔と一緒に楽しみたかったことも。でも、洋翔は親のために習い事をしてるわけじゃない」

言いながら、実花自身の胸にも突き刺さった。スポーツは専門外だからと翔太に任せ、洋翔の小さな異変を見過ごしてきたのは自分だ。

翔太は考え込むように、隅に寄せられたクラブバッグを見た。

「……サッカーは、やめたいんだな」

洋翔は少し迷ってから、うなずいた。

「うん。ぼく、バスケをやってみたい」

「……本当だな? またすぐに辞めるなんて言わないか?」

「うん。今度は、自分でやりたいって思ったことだから」

翔太はそれを聞いて、大きく息を吐いた。

「1回、バスケ見に行ってみるか」

「ほんと?」

その瞬間、ぱっと弾かれたように洋翔が顔を上げた。期待に満ちたその表情を見た瞬間、実花の胸のつかえが少し取れた気がした。

息子の笑顔が戻るまで

それからしばらくして、洋翔はサッカークラブを退会した。ほどなくしてバスケを始め、週末になるとグラウンドではなく体育館へ向かうのが習慣になった。

「洋翔、こっち!」

「颯真!」

呼ばれた洋翔は、実花の手から荷物を受け取り、一目散に駆け出した。友だちの隣に並び、体育館の中へ入っていく足取りは軽い。

「楽しそうだな」

「ほんとに。私たちのこと、見向きもせずに行っちゃった」

実花は翔太と並んで、その後ろ姿を見送った。開いた扉の向こうからは、ボールの弾む音と子どもたちの声がこぼれていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。