見過ごしてきた小さな悲鳴
「洋翔、どうしてサッカー行きたくなくなったのか話せる?」
努めて穏やかに尋ねたつもりだったが、洋翔はすぐには答えなかった。服の裾をいじりながら、何度か小さく息を吸う。実花は急かさず、ただ待った。
「サッカー、好きじゃない」
「嘘だろ」
「翔太」
「分かった。最後まで聞く」
「途中から好きじゃなくなっちゃったの? それとも最初から?」
「最初は楽しかった。ユニフォームも、かっこよかったし……」
そこまで言って、洋翔はそっと翔太を見た。
「パパも、すごく嬉しそうだったから」
実花の胸が痛んだ。見学の日の笑顔は、たしかに嘘ではなかったのだろう。しかしそれは、サッカーを続けたいという気持ちと同じではなかった。
「そっか。でも、途中から好きじゃなくなったんだよね? それはどうして?」
「なんか……毎週行くの、嫌になったから」
「何が嫌だった?」
洋翔は指をぎゅっと握った。
「みんな、ぼくよりサッカーうまいし……」
「うん」
「コーチも怖いし、なんか嫌だなって思った」
また翔太が何か言いかけたが、実花は視線だけで止める。ここで口を挟まれたら、洋翔はまた言葉を飲み込んでしまう。
「どうして嫌だって言わなかったの?」
「だって……」
口ごもりながら、またちらりと翔太の顔を見る洋翔に、実花は恐る恐る尋ねた。
「……怒られると思った?」
「うーん。怒られるっていうか、パパががっかりすると思って」
実花は返す言葉を失った。
翔太の熱量に押されていたのは、自分だけではない。洋翔は常に、その期待を受け止め続けていたのだ。
「サッカーよりバスケがいい」
「バスケ……颯真くんがやってるんだっけ?」
「うん。颯真くん、バスケクラブ行ってて。ぼくも毎日休み時間にバスケやってる」
バスケの話をする洋翔の目に光が宿った。声にも、わずかに明るさが戻る。
「ぼく、バスケのクラブやってみたい」
しかしその瞬間、翔太がソファの上で身を乗り出した。
「サッカーが嫌になったからやめたい、友達がやってるからバスケに行きたいって、それはわがままだろ」
洋翔がまたしゅんと小さくなる。実花はすぐに首を振った。
「わがままって、決めつけないで」
