繰り返される要求

ゴールデンウイークも明け、あっという間にやってきた金曜日の夕方、遥香がキッチンで夕食の準備をしていると、実桜が慌ただしく帰ってきた。

「おかえり」

「ただいま。あのさ、明日、またモールに行ってもいい?」

遥香は包丁を止めて振り返る。

「また莉奈ちゃんたちと?」

「そう」

「遊びに行くのはいいけど、お小遣いはあげないよ」

実桜の肩が、わずかにこわばった。

「え、なんで?」

「なんでって当たり前でしょ。今月のお小遣いは、もう渡したよね」

「そうだけど……」

「しかも、先月は追加で渡したよね? 今回だけだよって約束したの忘れたの?」

「……覚えてる」

「だったら、お小遣いの範囲内でやりくりしなさい」

実桜は冷蔵庫のマグネットをいじりながら、拗ねたように言った。

「でも、どうしても必要なの」

「何に使うの?」

「それは……言えない」

「だったら、お金は出せないよ」

わずかに遥香は自分の語気が強くなる。自分でも分かっていたが、使い道が曖昧なままお金を渡すわけにはいかなかった。

「なんで何でもかんでも、お母さんに説明しなきゃいけないの?」

「何でもかんでもじゃないよ。実桜が必要だって言うから、その理由を聞いてるんでしょ。本当に必要なものを買うんだったら、お母さんだってお小遣いあげるよ」

「本当に必要なんだよ。私、嘘ついてない」

「嘘だとは思ってないよ。でも、まだ自分で判断できないこともあるでしょ。お母さんは、実桜に無駄遣いしてほしくないから言ってるの」

その瞬間、実桜がぱっと顔を上げた。

「無駄遣いじゃない!」

遥香は眉をひそめながら、実桜に向き直った。

「あのね、実桜がもらってるお小遣いは、お父さんが頑張って働いて稼いでくれたお金なの。足りなくなったら追加でもらえばいいって簡単に思ってほしくないの」

「そんなふうに思ってない」

「だけど、今そういうことしてるでしょ」

「違うってば!」

さらに実桜の声が大きくなった。遥香も、つられて感情を抑えきれなくなる。

「違うなら、何に使うのか言いなさい」

「だから言えないって言ってるじゃん! みんなと一緒に行くのに、私だけ何も買えなかったら嫌なの! そういうの、お母さんには分かんないでしょ!」

「気持ちは分かるよ。でも、お金を出すかどうかは別」

「もういい!」

実桜は目を潤ませ、踵を返した。

「実桜、まだ話は終わってない」

「知らない!」

足音が2階の廊下を抜け、自室のドアが閉まる。遥香は追いかけようとしてやめ、深くため息をついてから料理を再開した。