初めての追加小遣い
「えー、今月はもう渡したでしょ」
「分かってる。でも、ほんとにちょっとだけ」
「何に使うのよ?」
こちらが本題だったか、と呆れながら遥香が尋ねると、実桜はダイニングテーブルの椅子を傾けてゆすりながら、照れくさそうに説明した。
「みんなでおそろいのキーホルダー買おうって話になってて」
「キーホルダー? ランドセルにつけるの禁止でしょ?」
「うん。だから筆箱につけるやつ。雑貨屋さんとかにある、小さいの」
遥香はすぐには返事をしなかった。
友だちとおそろいのものを買いたい気持ちは分かる。新しいグループの輪の中で、実桜だけが買えないのはかわいそうだとも思った。しかし、いくらでも追加でお小遣いをもらえるとは思わせたくはない。
「実桜、今月のお小遣いはどうしたの?」
「まだ少しあるよ。でも、キーホルダーいくらするか分かんないし。あと、飲み物とか買うかもしれないし」
真剣な実桜の顔を見て、遥香は小さく息をつき、財布を取りに立った。500円玉を1枚つまんで、実桜の前に差し出す。
「今回だけだからね」
「うん、ありがと」
受け取った実桜の表情がぱっと明るくなる。
「日が暮れる前には必ず帰ってくること」
「分かってる」
「それからあまり高いものは買わないこと。友だちに流されて、いらないものまで買わないこと」
「分かってるって」
釘を刺すと、実桜は笑いながらランドセルを拾い上げ、自室へ駆け上がっていった。そして1分もしないうちに下りてきたかと思うと、「遊びに行ってくる!」と玄関へ向かう。その背中に「暗くなる前に帰るのよ!」と叫んだあと、遥香は苦笑しながら夕食の準備に取り掛かった。
