月末復帰の思わぬ代償

翌日の午前、美波は自分の席でメールチェックを済ませたあと、給与明細の画面をもう一度開いた。

夜のうちに修正されていないかとわずかに期待していたが、差引支給額の前のマイナス記号はそのままだった。小さく息を吸って同じフロアの端にある総務課へ向かう。

「あの、少しよろしいでしょうか」

総務課の課長が顔を上げる。

「はい、どうしました?」

「今月の給与明細なんですけど……差引がマイナスになっていて」

「ええと、柴田さんですね。少々お待ちください」

課長は画面を確認し、すぐに事情が分かったようにうなずいた。その反応に、美波は逆に身構えた。

「驚かれたと思いますが、これは計算ミスではありません」

「ミスじゃないんですか」

「はい。柴田さんは4月末に復職されていますよね」

「4月30日です」

「その場合、4月分のお給料は1日分だけになります。一方で、社会保険料は月単位でかかるので、4月分が満額で発生します」

「……満額」

「ですので、1日分の支給額より保険料のほうが大きくなって、差引がマイナスになります。月末に復職されると、こういうことが起こるんですよ」

言っていることは分かる。分かるのに、すぐには飲み込めなかった。

美波は一拍遅れて口を開く。

「……4月中に復帰しないと、保育園の条件を満たせなかったんです」

「ええ、そこは何も問題ありません。ただ、給与計算と保険料は別なので、制度上はこの処理になります」

「なるほど……そういう仕組みなんですね」

「分かりにくいですよね。ご不明点があればまた聞いてください」

自席へ戻る途中、美波は思わず苦笑した。

4月中に復帰するという条件は守った。しかし、その結果、最初の給料日に自分が払う側になるとは思わなかった。美波は、納得感と釈然としなさが、同居しているのを感じていた。