デパートで買えば数万円はする高級ワイン
一仁の部屋にあがるなり、香山蒼汰はタータンチェック柄の紙袋を差し出した。中には箱入りのワインボトルが入っている。
「あんまりいいビンテージじゃないんですけど、カリフォルニアの有名なワインです。良かったらどうぞ」
一仁はそのワインのラベルを見て目を丸くした。デパートで買えば数万円はする高級ワインだった。
さすがに手土産にしては高額すぎるので、辞退しようか少し迷ったが、やめにした。香山夫妻はタワマン上層階に住むパワーカップルだし、彼らにとって数万円のワインをプレゼントすることなど屁でもないのだろう。逆に、プレジデントを断るほうが貧乏人ぽくて不作法に見えるかもしれない、そう考えたのだった。
「ではせっかくなので、遠慮なく頂戴しますね。どうぞお座りください。いま、お茶を淹れますからね」
そう言って一仁は若い2人にソファーをすすめると、自分はキッチンに立ち、慣れない手付きでお茶の用意をした。
「笹山さんて車のディーラーをされていたんですよね」香山蒼汰が言った。
「ええ、元ディーラーですけどね」
一仁はお茶の用意をしながら答えた。ポットでお湯を沸かしている間に、ティーポットに紅茶をはかって入れる。先週デパ地下で買ったアールグレイだからきっと美味しいはずだ。
「実は最近、車を買おうかなって思ってるんですよ」
「またわたしに黙って買おうとして」香山舞衣が不満そうに口をとがらせた。
「だってまだどんな車かも決めてないし。どうせなら笹山さんにおすすめの車を教えてもらおうと思って」
「そうですねえ。最近はやっぱりEVなんかが人気じゃないですかね」
「EVって使いにくかったりしませんかね」
「最近のは航続距離も伸びたので、そんなこともなくなってきたと思いますよ」
そんな風に答えながら、一仁は冷蔵庫からケーキを取り出し、お皿に取り分ける。ちょうどお湯も沸いたので、ティーポットにお湯を注ぎ、砂時計をひっくり返す。
「さあ、お茶が入りましたよ」
ティーセットとケーキをお盆に乗せ、ダイニングテーブルの上に置いた。
ケーキのお皿とティーカップを香山夫妻の前に並べる。
「いい香りですね」香山舞衣が言う。
「料理はなにもできないんですが、紅茶だけは好きで、ちゃんと淹れられるんですよ」
「へえ……」
そう呟いた香山舞衣の表情が急に曇った。
