待てなかった「ありがとう」
悠希の寝かしつけを終えて、ソファでスマホをいじっている美菜に慎太郎は声をかけた。
「美菜、あの、これなんだけど……」
そう言って慎太郎は紙袋を差し出した。美菜は目を丸くして驚きながら袋を受け取り中身を確認した。
「……え? ど、どういうこと?」
美菜の表情には困惑の色が広がっていた。慎太郎は素直に頭を下げた。
「ごめん。競馬をしたことを黙ってたことと、すぐ謝ることができなかったことを詫びたくて。だからその謝罪の気持ち。それとこんな俺と一緒にいてくれることへの感謝も伝えたくて」
「……それは分かったけど、なんで今?」
「実は3月9日がサンキューの日だから3月9日に渡そうと思ってたんだけど、さっき悠希にバレちゃって」
美菜は納得したようにうなずく。
「だからなんか遅かったのね」
「ああ。でも別にバレたから渡すんじゃなくて、そのときに悠希に言われちゃったんだよ。なんで3月9日まで待たないといけないんだってね。ありがとうを言うのなら思いついたそのときに言うべきだってそこで思ったんだ」
美菜は慎太郎の説明を聞いて顔をほころばせた。
「悠希に教わったってわけね」
「……ああ。本当に父親として情けないよ」
「ふーん。でも嬉しいよ。ありがとうね」
美菜はハンドクリームを見ながら目を細めた。
「競馬のことも本当にごめん。後ろめたい気持ちがなかったかと言えばウソになると思う。だから美菜には黙っておいたんだ。今後はもしそういうことがあってもすぐに説明をするから」
美菜はゆっくりとうなずいた。
「うん。ギャンブルをしたことよりも黙ってたことに私は怒ったの。付き合いってのはあるのはなんとなく分かるから。でも今後は付き合いでもやってほしくない。私たちはこれから頑張って悠希のためにお金を貯めないといけないからね」
美菜の言葉に慎太郎はうなずいた。美菜は満面の笑みを浮かべていた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
