情報から取り残された親子
玄関スツールに座った息子の健也は、ランドセルを背負ったまま屈み、靴を履いている。舞子は彼が立ち上がったのを確認し、水筒を手渡した。集団登校の集合場所まで2人で向かうが、普段なら集まっているはずのみんなの姿がなかった。
「あれ、どうしたんだろう……」
「ママ、今日から集合場所、ここじゃないって言われたよ」
「え? そんなの、聞いてない」
「昨日、みんながそう言ってた。ぼく、どこ行けばいい?」
舞子は言葉に詰まった。学校の配布物は見落としていない。メール通知も登録してあるし、自治体のお知らせも受け取れるようにした。だが、「みんなが言ってた」情報は、家のどこにもない。
舞子は健也を連れて周辺を歩き回った。すると少し離れた公園の入り口に、いつものみんなが集まっているのが見つかった。
舞子が近づくと、保護者の1人が小声で挨拶してくれる。
「おはようございます。あの……集合場所って、変更になったんですか」
「そうなんです。工事でここ危ないから、一時的にって……回覧読んでないですか?」
「回覧」という単語が、耳の奥で引っかかった。
「……すみません、うち、知らなくて」
「大丈夫ですよ。今週中だけ、みたいです」
健也は輪に入るタイミングが遅れたのが気まずいのか、舞子の袖を軽くつまんだ。舞子はしゃがんで目線を合わせる。
「ごめんね。ママが確認できてなかった」
「いいよ。ぼく、友だちに聞くから」
その気丈な言い方が、舞子には辛かった。
帰宅してから、舞子は予定帳を開き、他の保護者から聞いた工事の時間帯と通学路のメモを書き足した。
情報は手に入った。しかし最初から共有されていれば、健也は微妙な思いをせずに済んだだろう。
胸の中で、静かな焦りが広がった。
「舞子、何かあった?」
将司が目ざとくそう訊ねてきたのは、その日の夜のこと。
「うん……登校の集合場所が変わってたの。回覧で回ったって。健也に気を遣わせちゃった」
「そっか。舞子が悪いって話じゃない。でも、こういうことが続くと健也が困る」
舞子は頷いた。反射で「嫌よ」と言い返す力が、今日は出ない。
「分かった……説明だけ聞く。入るかどうかは、そのあと決める」
「うん。無理な役を背負わない前提で、ルールを確認しよう」
舞子は湯飲みの縁を指でなぞる。
嫌悪感は消えない。それでも、家族の生活を守るために、現実を見て判断しようと決めた。
