<前編のあらすじ>

夫の悟志は箱根駅伝に感動し、突然禁煙を宣言してランニングを始めると言い出した。理子は健康のためにも良いことだと賛成したが、悟志はランニングシューズを3足も購入し、合計7万円もの出費をする。

形から入るタイプだという悟志の説明に、理子は禁煙による節約効果を考えて渋々納得する。せめて続けてほしいと釘を刺したが、悟志は自信満々だった。

その後、悟志は予想以上にランニングにのめり込んでいき、理子の目から見ても異常なほどのハマりようだった。

●前編【「形から入るタイプなんだ」箱根駅伝に触発された夫…7万円のシューズ3足を買い揃えた理由に妻が感じた不安

趣味の域を超えた夫の変化

ランニングを始めてから1カ月が経ち、いつものように仕事から帰ってきた悟志はいつものようにランニングに向かっていった。

もし三日坊主でやめたら叱ってやろうと思っていたが、そんな心配は全くなく、むしろやりすぎてないかと心配になるほどだった。

ランニングを始めてから全くたばこを吸わなくなった。食事も脂質を控えてタンパク質を多めにとお願いされており、献立も豚肉よりも鶏肉、肉よりも野菜が増えるようになった。

その甲斐あってか、体型もほっそりしたように見えている。理子は無事に続いていることに満足していたが、悟志の表情は浮かなかった。

「今日も目標タイムには届かなかった……」

聞けば、悟志は50分以内に10キロを走ることを目標にしているらしい。理子にはそれがどれだけ速いのか遅いのか、いまいちピンときていないが、市民ランナー的にはまずクリアしておきたい数値のようで、理子も走ろうかと思って1度やんわり提案してみたらペースがちがうから無理だと鬱陶しそうに断られたこともあるから、よほど真剣に“練習”していることが伺えた。

「そうなんだ。でも体も細くなったし、そのうちできるようになるんじゃない?」

「普通に走ってても無理だよ。ただ1時間走るだけじゃなくてちょっとインターバル走とか、もっと専門的な練習に取り入れたほうが良いと思う」

「ふーん」

「そのときにはスピード練習用のシューズを履くんだ。ほらな、買っておいて良かっただろ?」

そもそもランニングは健康のためであって、速くなる必要がないと思っているから理子は頷くだけにしておいた。

「でも走る量が圧倒的に少ないんだよな。仕事終わりしかやれることってないからな……。いやそれなら朝早く起きて練習をすればいいか……」

ブツブツと話す悟志に理子は声をかける。

「ねえ、あんまりやり過ぎないでよ」

「え?」

「趣味でやってるくらいなんだからもっとゆったりやればいいじゃん」

暴走気味の悟志に理子はブレーキをかけたくて注意をした。しかし悟志はそんな理子を見て鼻で笑う。

「ただ走るだけなら意味なんてないだろ? いくら趣味だからってちゃんと高い目標を持ってやらないとダメなんだよ。将来的にはマラソン大会とかそういうのに出たいって俺は考えてるの。理子みたいに意識が低いまんまだと結局何も変わらないからさ」

心配して言ったのに馬鹿にされて理子はむかついた。それなら勝手にやってくれと。理子はもうそれ以上何も言わず、放っておくことにした。