新ワクチンが急伸、WHOの承認が追い風 手薄の新興国ビジネスを強化

新しい治療薬と並び、注力しているのがワクチンです。武田薬品工業はワクチンを重点領域の1つに位置付けており、世界の公衆衛生ニーズに応えることで成長を目指しています。

特に期待されるのが、デング熱ワクチンの「キューデンガ(TAK-003)」です。米国疾病予防管理センター(CDC)と共同開発し、22年8月にインドネシアで初めて承認を受けました。24年にはWHO(世界保健機関)からデング熱ワクチンとして世界で2番目の事前認証を受け、一定の小児に対する接種が推奨されるに至ります。承認地域は拡大し、25年3月期までに29カ国で接種が可能となっています(米国は23年に申請を取り下げ)。

デング熱の脅威は世界的に高まっています。WHOによると、デング熱の報告例は24年に1460万件に達し、00年(同50万5430件)から28.9倍に増加しました。日本でも19年に感染の報告例があります。WHOは同年、HIVや大気汚染と並び、デング熱を「世界の健康に対する10の脅威」に指定しました。

脅威の高まりを受け、キューデンガの需要は急伸しています。25年3月期は接種900万回分を製造し、売り上げは前期比3.5倍となる356億円に達しました。製造は今期(26年3月期)に1550万回分を予定しており、31年3月期までに年1億回分の生産能力を構築する計画です。

ワクチンはグローバル戦略で重要な役割を担っています。武田薬品工業は30年度までに新興国で売り上げ1兆円を目指す計画ですが、ワクチンはその成長ドライバーとなる想定です。現在の収益源は米国などの先進国に偏りますが、新興国事業が成長すれば地理的なバランスが向上すると考えられます。

【地域別の売上収益(25年3月期)】

・日本:4185億円(連結に占める構成比:9.1%)
・米国:2兆3797億円(同:51.9%)
・欧州およびカナダ:1兆553億円(同23.0%)

出所:武田薬品工業 有価証券報告書