買物で現実逃避をする日々

たとえ遠ざけたいと願っても、母親が産んだ子どもを本当に遠ざけてしまうことはできない。だからせめてもの現実逃避のために、佳世はものを買うようになっていた。

洋服、アクセサリー、台所用品、食器、ソシャゲの課金――。買うものは何でもよかった。とにかく消費しているということが、何かを手に入れているという感覚が、佳世の気持ちを落ち着かせた。

だが、大吾から与えられていた生活費ではそれらの出費を全てまかなうことなんてできなかった。だからカードローンを組んで現金を引き出した。少しずつ返せば問題ないとは思っていたが、佳世の浪費はその少しずつを遥かに上回った。花の栄養失調が分かり、大吾が家庭の惨状に目を向けたときには、佳世の借金は700万を超えていた。

「花のことをほったらかしにして、君は何をやってたの?」

いつもきれいに撫でつけている髪をかきむしった大吾が言った言葉を一言一句、声のトーンも乱れた家の光景も、泣き叫ぶ花の声も、何ひとつ違うことなく覚えている。あのときの全てが佳世の脳裏に焼き付いている。

何をやっているんだろう。

花は自問した。答えられなかった。自分でも何をしているのか、何をしたかったのか、何をしてしまったのかもよく分からなかった。

大吾に促されるまま、佳世は離婚届に名前を書いた。花は大吾が育てることになった。佳世に残ったのは息を吸っているだけで増えていく借金だけだった。