投資家ウォーレン・バフェットによる日本商社株への投資は、大きな話題となりました。国内では外国投資家の日本株への期待の表れと伝えられましたが、その狙いは別のところにあったのかもしれません。

長年、日米の金融市場で投資を手がけてきたファンドマネジャー、ワイズマン廣田綾子氏はバフェットの商社株への投資と高騰するビットコインや金(ゴールド)の関連性を指摘します。

いま世界中の投資家が“限りある資産”に注目する理由、そして日本で起きている変化を解説してもらいます。

※本稿は、ワイズマン廣田綾子著『海外投資家はなぜ、日本に投資するのか』(日経プレミアシリーズ)の一部を抜粋・再編集したものです。

金融資産から実質資産の時代に

コロナ禍は、投資の世界の流れを結果的に変えてしまう出来事でした。まず重要なのは、1980年代初頭に始まったディスインフレの流れを止めてしまったことです。

歴史を振り返れば、このディスインフレは、レーガン大統領がアメリカのFRB議長にポール・ボルカー氏を任命し、彼がアメリカの金利を急上昇させ、インフレ退治に成功したことに端を発しています。ボルカー氏の勇気ある高金利政策によって、その後40年の間、アメリカの金利は1981年6月の20%をピークとして下降を続け、2020年には0%まで低下し、インフレ率についても逆にデフレが心配されるレベルまで下がっていったのです。こうした動きは、債券、株などの金融資産にとって大変な追い風となっていました。

ところがコロナ禍による経済的な打撃を和らげるために各国が取った金融政策のために、この環境は激変してしまいました。その最初の犠牲者が、各国の貨幣です。

貨幣の総量の増加ペースはブレトンウッズ体制が確立された第二次世界大戦以降、平均して年率2%程度で推移していました。しかしコロナ禍をきっかけに一時、20%まで増加しました。加えて、サプライチェーンの混乱を背景としたインフレ率の高まりによって、通貨の価値自体も下落しています。これは貨幣全体に対する信用の問題であって、ドル以外の通貨を持っていればよい、という簡単な話ではありません。