<前編のあらすじ>

長年病床にあった父の死後、息子の一健(かずたけ)さんは相続手続きを進めていた。そんな中、父の介護を10年以上担当していた介護士の相馬さんが遺言書を発見する。

開封してみると、そこには「財産のすべてを介護士の相馬に相続させる」という衝撃的な内容が記されていた。総額1000万円の遺産について、一健さんには遺留分として半額の請求権があるものの、財産そのものは相馬さんのものとなる。

介護を任せきりにしていた代償として、血のつながらない介護士に父の遺産を譲ることとなってしまった。

●前編:【遺言書一枚で消えた1000万円】父が選んだ相手は“赤の他人”…実の息子が直面した想定外の相続

息子の権利と現実の壁

一健さんはもうその日はそれ以降何も覚えておらず、もうろうとしながら帰宅したと私に語る。

後日、一健さんは内容証明郵便にて遺留分を行使し、相馬さんに遺留分の請求をした。そしてその翌週、話し合いのため一健さんの実家で相馬さんと会合。すぐさま一健さんが言う。

「法律で決まってるんだから、500万円は払ってもらいますよ」

相馬さんはため息をついた。

「そんな大金、すぐに用意できるわけないでしょう?」

それを聞いた一健さんが壁を殴り、声を荒げる。

「いや、それはそっちの問題ですよ。法的に俺が受け取る権利があるんですから」

すぐさま相馬さんが言い返す。

「じゃあ、分割払いにしてもらえませんか?」

まるで用意してきたかのような言葉に、一健さんは、開いた口がふさがらなかった。

「……分割?」

一健さんの様子を見た相馬さんは畳みかけてくる。

「一括で払う余裕はないんです。それに、私がこれまでお父様の面倒を見ていたことを考えたら、それくらいの配慮があってもいいんじゃないですか?」

一健さんは憤った。

「お前が面倒を見ていたのは仕事だろ? その対価はすでに給料としてもらっていたはずだ」

だが相馬さんも引かない。

「そうかもしれません。でも、お父様の気持ちを考えたことはありますか? 彼がなぜ私に財産を残そうとしたのか、本当に分かっていますか?」

一健さんはもう何も言えなかった。