暴走する一健さん

「こんなの納得できるか!」

一健さんは相馬さんに詰め寄った。

しかし、相馬さんが臆せず答える。

「遺言書の記載によって相続財産を得られるのは私です。あなたは遺留分を主張することこそ可能ですけど、その程度ですよ。で? どうしますか?」

一健さんは相馬さんのあおるような態度に憤るとともに、父が子である自分より優先した存在が目の前にいるという悲しみで拳を震わせた。

ここで相馬さんがいう遺留分について確認しよう。遺留分とは、法定相続人に保証された最低限の取り分のことだ。たとえ遺言書で今回のように、「財産はすべて他人に渡す」といった具合に書かれていても、法律上、遺留分が認められている相続人は一定の財産を請求できる。

一健さんは相馬さんに恐る恐る聞く。

「俺の取り分はどのくらいですか?」

「お父様の財産は1000万円ですので、遺留分として請求できるのはその半分の500万円です」

どうやら相馬さんはそれなりに法的知識があるか、それとも今回の件に備えて理論武装をしているかのどちらかのようだ。

「ただし……」

相馬さんが用意してきたカンペを読み上げるかのような流暢さで話す。

「遺留分侵害額請求は、あくまで金銭での請求となります。つまり、私はあなたの請求に対して500万円を支払う義務はありますが、500万円分の遺産を渡す必要はありません。」

「どういうことですか?」

一健さんは半泣きで答える。

「この家も含めてすべての財産はあくまでも私のものってことです」

一健さんはあぜんとし、悟った。自分は子供でもない赤の他人の介護士に長男の地位を奪われたのだと。

●相続の行方は、後編【介護士vs実の息子…1000万円の相続争いが勃発。10年間の介護の重みが引き起こした「驚きの結末」】で詳説します。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。