<前編のあらすじ>
自分自身を「弱者男性」と感じている市田洋介(43歳)は、低収入で彼女もなく、東京の片隅でひっそりと暮らしていた。

趣味の読書を細々と続けながら、静かに暮らしていきたいと考えていたが、SNSで見かけた「つみたて投資のすすめ」を実行に移したことから、心のザワめきを感じることに……。

●前編:彼女なし、低収入で自信もない…就職氷河期の「自称・弱者男性」を襲った胸のザワめきとは!?

「億り人」も「FIRE」も縁遠い話

2017年頃のことだ。市田が何気なく眺めていたSNSで、一時、「億り人」という言葉が目についた時があった。「億り人」とは、そもそも当時の暗号資産(仮想通貨)ブームで、短期間に急騰した銘柄で1億円を超える資産を作ってしまった人たちのことを指していた。市田は、そのような記事を読んでも、「仮想通貨」や「1億円でFIRE(早期リタイア)」などという言葉に踊る気持ちはなかった。ただ、その記事の中での「1万円のつみたて投資」とか、「コツコツ長期で資産形成」という言葉には惹かれるものがあった。

そして、2018年1月にスタートする「つみたてNISA」は、年間40万円を20年間、収益非課税で投資できる制度として注目されていた。「お金のない若い世代が、将来の富裕層になるための制度」という紹介記事を読んで、市田は「富裕層にならないまでも、周囲に迷惑をかけることのない老後の準備は必要」と考えた。

非正規で働く市田は、登録先の派遣会社で厚生年金に入っていたが、一般に聞く30代後半の年収に比べて収入の水準がグンと低く、したがって、老後にもらえる年金の額にも期待が持てないと感じていた。厚生労働省の「あなたの年金見込み受給額」のシミュレーターを使って現在の年収で65歳まで働いたとして受け取れる年金額を試算したところ、150万円という結果だった。月額で12.5万円ということは、現在よりも月額が10万円ほど少なくなることになる。今より10万円少ない収入で暮らしていくことはとてもできないと感じられた。