コストカバー率は6割超

現状、どこまでフローからストックへと収益構造が変わったのか。これはストック収益の中核となる「信託報酬+ラップフィー」がグループ会社すべての販管費に対する割合を示す「コストカバー率」を見れば一目瞭然だ。コストカバー率が高いほど、ストック収入を中心とする収益構造であることを意味する。

いちよし証券のコストカバー率は、1998年3月期は3.1%だったのが、2024年3月期では61.2%まで上昇している。販管費の6割を、投資信託の信託報酬やラップ口座のフィーによって賄えており、フローからストックへの移行が着実に進んでいることがうかがえる。

ただ、ここまで来るにはさまざまな苦労もあったようだ。

「フロー収益を中心にしていた当時は、インドネシア株や香港株の他、アジアの高利回り債、デュアルカレンシー債なども扱っていましたが、アジア通貨危機や円高急伸によって、いずれの商品にも大幅な毀損(きそん)が生じ、結果的にお客様ご迷惑をおかけしてしまいました。そこで2000年以降は、どれだけ人気のある商品でも、お客様への説明が難しいもの、われわれのリサーチが及ばないものは販売しないとし、私どもとして取り扱わない商品を明確に規定した『いちよし基準』を導入しました」(白石氏)。

顧客は、世間ではやっている投資商品を購入したがる傾向がある。それは証券会社にとってビジネスチャンスだが、たとえ人気があっても、顧客のためにならないと思われるものは扱わないという姿勢を貫くのは、並大抵のことではない。それを実現できたのは、「フローからストックへ」の大号令を発した当時の社長で、現会長の武樋政司氏が、揺るがぬスタンスを常に社員に対して示してきたからだ。