<前編のあらすじ>
晃彦さん(仮名)は64歳の男性です。大学卒業以来ずっと会社員を続けていました。健康には自信もあり、60歳で定年を迎えてからも勤務を続けています。そんな晃彦さんの最愛の妻・亜矢さんは6年前の56歳の時に病気で亡くなりました。亜矢さんは結婚前までは会社に勤めており、結婚後から亡くなるまでは専業主婦でした。
ある時、晃彦さんはおひとりさまとして過ごす老後に備え、年金のことをもう少し知っておこうと年金事務所へ相談に行くことにします。
そこで職員に繰下げ受給を検討していることを話すと、まさかの事実が発覚。なんと繰下げ受給はできないと言われてしまったのです。突然の話に晃彦さんは耳を疑い、「長生きに備えたかったのに……」と落胆します。
●前編:【「繰下げ受給はできません」年金増額で “安心老後”を夢見たおひとりさま男性が直面した「衝撃の事実」】
繰下げができない原因は亜矢さんが亡くなっていたこと
亜矢さんは、結婚後は専業主婦でも、結婚前は会社員でした。つまり厚生年金加入者だったことになります。
そして、亜矢さんが亡くなった当時、晃彦さんは58歳で、さらに、亜矢さんと同居もしていて、晃彦さん自身の前年の収入も850万円未満でした。そのため、亜矢さんに生計を維持されていたことになり、晃彦さんには遺族厚生年金の受給権が発生します。
妻死亡による夫の遺族厚生年金は死亡した当時夫が55歳以上であれば対象となり、実際の支給は60歳からとなりますが、こちらについて晃彦さんは未請求でした。さかのぼって、遺族厚生年金を請求し、亜矢さんの厚生年金加入記録で計算された年間数万円の遺族厚生年金を受給できることになります。
また、既に晃彦さんには老齢年金の年金請求書が届き、64歳から65歳までの特別支給の老齢厚生年金(特老厚)があり、こちらが未請求でした。この特老厚も既に請求できることになります。
ただし、64歳から65歳までの1年間は、特老厚とそれ以前から発生している遺族厚生年金とどちらか選択となります。晃彦さんの場合、遺族厚生年金より特老厚が圧倒的に高い額となるため、特老厚を選択して受給することになります。従って、さかのぼって60歳から64歳までは遺族厚生年金、64歳からは特老厚を受給することになります。
そして、このまま65歳を迎えると、たとえ64歳以降遺族厚生年金を実際に受給していなくても、遺族厚生年金の受給権があることにより、65歳からの老齢基礎年金も老齢厚生年金も繰下げができません。