皆さんは「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。このウェルビーイングとは、簡単に言えば 「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること」と定義されています (厚生労働省 雇用政策研究会報告書 概要(2019年)より)。世界幸福度ランキングのデータ元としても有名な米国調査会社ギャラップ社によると、Well-beingは【図表1】に示されている5つの概念で構成されます。

【図表1】Well-beingの5つの概念

 

*米ギャラップ社提唱のWell-beingの5つの概念

その中で重要な概念の一つとしてファイナンシャル・ウェルビーイング(Financial Well-being)があります。ファイナンシャル・ウェルビーイングは、具体的には「将来のライフイベントを適切に把握し、賢い意思決定によりお金に関する不安を解消させ、未来に向けて自律的に行動できる状態」を指します。

ファイナンシャル・ウェルビーイングは、単純に客観的な所得や資産を増やすことが重要だと思われるかもしれません。しかしながら、それだけでは実現が困難といえます。

2023年の日本版Well-being Initiativeの調査では、現在と5年後の主観的ウェルビーイングの相関関係と「ドライバー(原動力)」、すなわち影響要因を特定しました。それによると、「現在の生活」「5年後の生活」の評価の最大影響要因は、「所得に対する主観的感情」であったことが分かっています。特筆すべきは、自身の客観的な所得水準は主観的感情に比べてはるか低位にあることです。自身の生活水準などに照らし、現在・将来の所得が満足かどうか、がウェルビーイング全体に影響していることが見て取れます。

【図表2】 現在と5年後の生活指数の影響要因(影響度によるランキング)

 

 

*注:これらの指標は、P値0.05以下であり、統計的に主観的ウェルビーイングの影響要因としての重要性が低い。
本ランキングは2023年、ギャラップ社が日経のためにDatawrapperで作成
※性別、年齢、最終学歴、雇用状態、所得レベル、世帯規模、配偶者の有無、地域性(都会部・地方部の差)、最低生活費の有無、健康上の問題など、主観的ウェルビーイングに影響を与えると認識されている人口統計学的特性や態度、その他の関連条件を採用し、あらゆる特性の主観的ウェルビーイングに対する影響(つまり効果の大きさ)レベルのランクづけしたもの
(出所)日本版Well-being Initiative(日本経済新聞社が公益財団法人Well-being for Planet Earth、有志の企業や有識者・団体等と連携して発足した団体)

例えば、収入が上がったとしても、その分だけ贅沢をして生活水準を上げてしまうと、その分だけ支出も増え、家計状況は良くならないかもしれません。一方で、限られた資産・所得でも「この水準でやっていける」という感覚を持てる状態であれば、満たされた状態で生活できるかもしれません。ファイナンシャル・ウェルビーイングというのは、このように、客観的な所得の多寡などだけではない概念です。