契機は運用会社からの問い合わせ 企業と投資家をつなぐ役割に期待

――御社はいつから、運用会社にデータを提供するようになったのですか。

大澤 きっかけは、2016年に海外のある運用会社から、当社の口コミデータに興味があるという連絡を受けたことです。その翌年には国内の研究者からも声が掛かったことで、共同研究がスタートしました。この研究では、当社口コミデータから算出した「組織文化スコア」と、企業財務及び株価パフォーマンスに一部相関があることが明らかになり、2018年に証券アナリストジャーナル誌で最優秀賞を受賞しています。その結果、国内外のマネジャーから幅広く関心を寄せていただくようになりました。

もう1つ、2021年に発表された他論文の研究内容について、少しだけ紹介すると、若手に裁量権があるとコメントされるような「働きがい」スコアが改善傾向にある企業は2~3年後の企業の成長性が高くなる傾向にあったり、「働きやすさ」スコアが改善傾向にある企業であれば収益性の改善につながりやすいことが明らかになっています。また、このようなスコアの改善は、株価パフォーマンスにもプラスの影響があることが明らかになりました。

こうしたデータの使い方は、運用会社によってさまざまです。個人的にはESG投資の観点でS(社会)やG(ガバナンス)の評価に有用だと考えていますし、上記の研究論文で数年先の企業価値に影響を与えることが示されたことからも、長期保有を前提としたファンドにも採用していただいています。

一方、比較的短期の売買を行うファンドでは、リスク分析のツールとして使用されるケースが多い印象です。例えば法令遵守の意識の低さや女性の働きにくさなどの観点から、潜在的なリスクが評価されているようです。

――それ以外に、口コミデータにはどんな活用法が考えられるでしょうか。

大澤 企業に対して人的資本の情報開示が義務化されたこともあって、経営者やIRチームからも当社のデータに対する関心が高まっています。そこで今、企業の働きがいや働きやすさなどを他社比較や時系列で分析できるよう準備を進めているところです。

また、口コミを見た投資家が企業に対し、評価が低いことについて改善を求めた事例もあります。当社のデータを媒介にして投資家と経営者との対話に深みが増し、スコアの改善がさらなる業績の上昇をもたらすといった、好循環が生まれる可能性を示唆しているのではないでしょうか。この動きが広がれば、日本経済全体の活性化にも寄与すると考えています。