賞味期限を過ぎた夢は呪いに変わる。ゆっくりと心をむしばみ、身体をさいなみ、生活と未来をほころばせる呪いになる。

年が明ければすぐに40歳になる佐々木翔子は、冷蔵庫に入れたまま半年前に期限の切れているプリンを見つけて、そんなことを考えた。

翔子は今から21年前、女優になることを夢見て東北の田舎から東京へとやってきた。アルバイトで生計を立てながら、劇団〈サボテン〉に入った。初めて役をもらったのは22歳のときで、せりふは「やってらんねえ!」の一言だった。26歳のときに初めて主演を務め、29歳のときには脚本と演出も担当した。30代に入ってからは新しく入ってきた若い子たちに席を譲りながら、屋台骨として劇団を支えてきたつもりだ。

けれどその日々も昨日で終わった。劇団〈サボテン〉は解散公演を終え、短くない歴史に幕を閉じた。

翔子はずっと演技だけをやってきた。女優になることが小さいころからの夢だった。しかし年を取り、思い描いた将来なんてものはいつの間にかなくなっていた。

残ったのはこれまでやってきた公演の刷りすぎたビラと、かなわなかった夢が心にあけていったむなしさだけ。

とはいえ翔子には感傷に浸っている余裕なんてないのもまた現実だった。劇団が解散し、夢が散っても翔子は生きている。生きている限り、生活は続く。

翔子はキッチンシンクの蛇口をひねり、勢いをつけて顔を洗う。冬の朝の冷水で、鬱屈(うっくつ)とした気分を強引に振り払う。