『シン・ニホン』(NewsPicksパブリッシング)を著した安宅和人氏(慶應義塾大学環境情報学部教授/Zホールディングスシニアストラテジスト)は、「日本はグランドデザインを描いて、新しい世界や産業をつくるのは下手だけれども、そこに改良を加えた新しいサービスなどを乗せるのが上手い」ということを語っていますが、これは本当だと思います。
たとえば自動車という新しい移動手段を量産化し、世の中を大きく変えたのは米国のフォードですが、新車の総販売台数を見ると、日本のトヨタが世界一になっていますし、1970年代に環境性能を高めたCVCCというエンジン技術で、本田技研工業が世界中の注目を集めたのも有名な話です。
この伝でいえば、ブロックチェーン技術を核にした分散型ネットワークである、Web3.0が実用化される時、そこに乗せる新しいサービスの開発で、日本のスタートアップ企業が活躍する可能性は十分にあります。
さらにこの上乗せ、展開、工夫の動きは、デジタル化やDX(デジタル・トランスフォーメーション)化が難しい「リアルの産業」において、日本から新たな事業・サービス・産業が育ってくることも期待できるでしょう。つまりは労働集約的な小売、物流、あるいは建設、インフラ設備、環境エネルギー関連事業などにおいて、デジタル・DXがインストールされて、生産性が劇的に向上するといった可能性が想定されます。
なお安宅さんは、日本の産業界に必要なものとして「物魂電才」という概念も提唱されていました。以下はその概念の一部です。
「モノとリアルな世界の価値を大切にし、これをまったく新しいデジタル×ESG的な才覚で価値創造する、これが物魂電才だ。(中略)日本は和魂洋才を掲げ、(中略)産業革命の最後の果実をもぎ取った国だ。いまの僕らにとっての和魂があるとするならば(中略)モノ、リアルに対する圧倒的な執着のように思う。これを宝にしつつも、新しい世界をいかに生み出していくか」(安宅和人氏ブログ 2022年10月10日記事より抜粋)
そして、その中心人物は、敗戦国メンタリティに囚われていない、今の20代、30代になるでしょう。ここが日本経済復活の起爆剤になると見ています。
●後編(TSMC生産拠点建設は好機…日本経済復活のチャンスを逃さないために重要な“ただ1つのこと”)では、もう一つの復活シナリオについて解説します。
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