<前編のあらすじ>
主婦の吉田智枝さん(仮名・当時55歳)は、2人の息子も社会人になり、夫婦2人だけの生活を迎えていました。夫の孝雄さん(仮名・当時58歳)は、大手機械メーカーの営業部長で、特に不満もなく平穏な日常を送っていました。
ところが智枝さんは、数年前から夫の立てる「音」が気に障るようになり、イライラがたまっていました。
ある日、夫が1泊出張と言って出かけた日、友人とランチをしていると、店内には夫と女性の姿が……!
見て見ぬふりをした智枝さんですが、夫のたてる「音」が理由もなく不快に感じた理由は、夫の中に他の女性を感じていたからだったのかもしれない……。と気づきます。
何事もなかったように暮らしていくことも考えた智枝さんですが、やはり「今後、何十年も夫と暮らし、面倒を見ることはあり得ない!」と、離婚を決意し、行動を起こします。
●前編:一緒に暮らしていくのが耐えられない! 突然“音”が気になり夫がウザい存在に…
戦略的な離婚交渉に持ち込む
決断をしてからの智枝さんの行動は機敏でした。まるで、人が変わってしまったかのように忙しく動き回るようになり、毎日の生活が驚くほど充実したものに変化しました。まず、弁護士に離婚についての相談をし、それから、探偵事務所に夫の素行調査を依頼し、夫の不倫の証拠を集めました。知人にも弁護士はいましたが、智枝さんはあえてネットで探した縁もゆかりもない弁護士事務所に依頼しました。自分のプライベートな話を友人の弁護士には言いたくなかったのです。
その若い弁護士、門倉五郎さん(38歳、仮名)は、ネットでさまざまな事例を発信している弁護士でした。実際に、会って話をしてみると、門倉さんは驚くほど優秀な人でした。
門倉さんのアドバイスは、離婚交渉を、慰謝料請求から始めましょうというものでした。その先制パンチにより、離婚交渉が有利に持っていけるということでした。
ひとりで考えていても思い至らない点ですが、離婚協議は、戦略的に推し進めていくことが、極めて重要だということです。探偵事務所を使って夫の不倫について動かぬ証拠を押さえることができると、交渉を有利に進められます。そして、財産分与や年金分割というゴールに至るまで、緻密な作戦を作り、自分に有利な条件を勝ち得ていくことを目指します。智枝さんは、念のためにFPの資格を持っている税理士さんにも参加してもらい、具体的な税の支払いや離婚後のライフプランも同時に作ってもらいました。税理士は門倉さんに紹介してもらい、最強のチーム編成で離婚協議に臨むことができたのです。
智枝さんにとって、何よりもありがたかったことは、保険や年金や退職金、家のローンの問題など全ての財産に関わる問題を弁護士さんがまとめて交渉してくれた事です。智枝さんには全く知識のなかったことですが、厚生年金だけでなく、退職一時金や、企業年金の想定金額も会社側から資料を取り寄せてくれました。智枝さんにとっては、想像以上の恵まれた会社側の福利厚生の金額に驚きながら、智枝さんの取り分としてありがたくもらうことにしました。弁護士が自分の代理としてやってくれるので、智枝さんは自分が欲張りとも思われずに、後ろめたい感情も持たないで済みました。