日本取引所グループ(JPX)が開発した日本株の新指数「JPXプライム150指数」の算出が7月3日に開始となり、TOPIXや日経平均株価とは大きく異なるコンセプトのインデックスとして大きな注目を集めています。
算出開始に先立ち、新指数の開発と推進を担う株式会社JPX総研、執行役員の高橋直也氏に直接インタビュー。新指数のコンセプトや概要、開発の背景から、国内外の主要指数との比較、今後に期待することなどをうかがいました。
株式会社JPX総研
執行役員
インデックスビジネス・クライアントサービス担当
高橋直也氏
PBR1倍超・財務優良な150社を選定
——「JPXプライム150指数(以下、プライム150)」は今年3月末に概要が公表されて以来、その構成銘柄を含めて大きな話題になってきました。運用開始直前のタイミングで、投資家のみなさんに改めて新指数のコンセプトや概要などを分かりやすく説明いただきたいと思います。
高橋 基本コンセプトは、価値創造が推定される我が国の代表的企業からなる指数です。東証プライム市場に上場している時価総額上位500社から①財務実績の上位75社、②この75社を除いたうちで株価純資産倍率(PBR)1倍を超す市場評価の高い時価総額上位75社――これらを合算して150社を選定しました。
財務実績は、「エクイティ・スプレッド」という指標で測ります。エクイティ・スプレッドは、自己資本利益率(ROE)から株主資本コスト(借り入れであれば金利に相当)を引いたものです。ROEが株主資本コスト(株主が求めるリターン)を上回れば、それだけ価値を創造していることを意味するわけです。
JPXプライム150指数 銘柄選定方法
◇基本コンセプトは、「価値創造が推定される我が国の代表的企業からなる指数」
◇高いガバナンス基準が課されるプライム市場上場会社であって時価総額上位500社から、価値創造が推定される150社を選定
◇価値創造の推定には、財務等のファンダメンタルズ評価であるエクイティスプレッド(ROE-株主資本コスト)と、将来情報や非財務情報を含む市場評価であるPBRの2指標を活用
(※図をクリックで拡大)
出所:JPX
市場平均と異なる値動き
——いわばピカピカの「勝ち組」企業に光を当てる、ということですね。TOPIXや日経平均株価と異なる指数といえば、2014年にスタートした「JPX日経インデックス400(JPX日経400)」もありますね。
高橋 JPX日経400はプライム・スタンダード・グロース市場の流動性上位1000社から、ROE・営業利益・時価総額でスコアリングして選定する指数で、大型から中小型まで幅広い銘柄が含まれていて、時価総額の平均値は1.5兆円、中央値は0.6兆円です。これに対してプライム150は大型株が中心です。時価総額の平均値も2.6兆円、中央値は1.5兆円となっています。
JPX日経400は市場平均であるTOPIXに近く、それだけに代替性もありますが、プライム150は大型かつグロースという特性があり、市場平均とは違う値動きを示します。それだけに、アクティブ運用の一部としての活用ニーズもあると考えていますし、年金・機関投資家のみなさんに対しても、スタイル分散の一環として新しい投資価値を提供できるのではと思っています。
TOPIX改革と連動
——新指数の開発はいつごろから議論が始まったのですか。
高橋 東証は昨年2022年4月にプライム、スタンダード、グロースという新たな3市場区分に移行しました。しかし、その後はご承知のような耳に痛い指摘を多々いただきました。特に、PBR1倍割れの企業がプライム市場に約半数あることや、上場基準達成までの経過措置に期限の定めのないことなどについてです。
また、TOPIXは銘柄数そのものが多すぎるとの指摘があり、これに関しては流動性時価総額が100億円未満の約500社は2年半かけて段階的に除外するといった措置も講じています。
ただ、こうした指摘全般に対して、指数の面から何か対応できないだろうか。そういった議論や検討を昨年秋ごろから始めて今回、こうした大型株にフォーカスする新指数開発に至ったわけです。
電機、情報通信、医薬などに比重
——プライム150はTOPIXと構成銘柄が大きく異なっていますね。TOPIXで最もウェイトが高いトヨタ自動車や、メガバンクなどが抜けていることも大きな話題になりました。
高橋 冒頭に申し上げた選定基準を、直前と前期の過去2期の決算を参照して適用した結果です。時価総額上位企業がPBR1倍を超すことができていなかったことで、銀行、輸送機器、不動産といったセクターがTOPIXに比べて大きくアンダーウェイトしています。一方で電気機器、情報・通信業、医薬品というセクターなどがオーバーウェイトしています。この結果、TOPIXに対するトラッキングエラー(TE:リターンの乖離の度合い)は、TOPIX500が0.66%なのに対して、プライム150は3.2%と大きく差が出ています。
JPXプライム150指数の構成銘柄のウエイトの状況など
各指数の業種別(東証33業種)のウエイト合計(2023年5月16日時点)
(※図をクリックで拡大)
ウエイト上位10銘柄(2023年5月16日時点)
対TOPIXトラッキング・エラー ※
※TOPIXに対するリターンの乖離の度合い(リターンの差異の年率標準偏差。当社試算)
出所:いずれもJPX