宇宙開発企業が初めて上場。実力は?

ギャラクシーエクスプレスは残念ながら清算されてしまいましたが、冒頭紹介したアイスペースの調子はどうでしょうか。

アイスペースは2010年9月に設立された企業です。2013年7月にグーグルがスポンサーとなって開催された世界初の月面調査探査レース「Google Lunar XPRIZE」に日本から唯一参加し、宇宙ビジネスに本格的に進出しました。同レースでは同社の月面探査車が評価され表彰されています。その後、ルクセンブルクと月開発に関する覚書の締結や、NASAに月面輸送サービスのチームに選任されるなど、月の開発において確かな実績を残してきました。

これらもあり、アイスペースの売上高は順調に成長しています。ただし先行投資が続いており、純損失は年々拡大してきました。もっとも、宇宙ビジネスの将来性に期待する投資家は、足元の赤字にはそれほど関心を示さないかもしれません。

【上場前のアイスペースの売上高および純損益】

ispace(アイスペース)「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」より著者作成

アイスペース株式への投資の注意点として、増資による希薄化が指摘されています。同社は2022年7月にシンジゲートローンで約50億円を調達していますが、これには財務制限条項が付されており、抵触すれば一括返済を求められる可能性があります。うち「純資産を正の値に維持すること」とする条項には既に抵触しており、「現預金を30億円以上に維持すること」と定めた条項にも肉薄しています(2023年3月末時点)。

【貸借対照表上の純資産と現預金の額(2023年3月末時点)】
・純資産:-23.5億円
・現預金:33.8億円

出所:ispace(アイスペース) 2023年3月期決算短信

アイスペースによると、同社はシンジゲート団から2023年3月期時点では同条項を行使しない旨の確約を得ていますが、将来も同様の合意を得られる保証はありません。このため、アイスペースは財務制限条項への抵触を避ける目的で将来増資を行う可能性が指摘されています。

増資に伴って株数が増加すれば1株あたりの価値が薄まり、短期的には株価の下落要因として働くでしょう。もちろん、増資に成功すれば財務制限条項に抵触する可能性が低くなるわけですから、これが好感されれば株価は上昇するかもしれません。

【アイスペースの業績】

※2024年3月期(予想)は、2023年3月期時点における同社の予想

出所:ispace(アイスペース) 2023年3月期決算短信