〈前編のあらすじ〉

自宅で夫、拓郎さん(仮名・89歳)の介護をする、相談者の石井頼子さん(仮名・80歳)。

いわゆる“老老介護”で、通常なら施設に預ける人が多いところですが、頼子さんは拓郎さんの「施設には絶対に入りたくない」という思いに寄り添うため、ヘルパーさんの力を借りつつ、自宅での介護を続けています。

拓郎さんは、「要介護5」なので、介護保険から支給される上限額は1カ月約36万円。ただ、それを越えて、20万円近く自己負担分がかかっている現実があります。そして、その約20万円は年金だけでは足りず、所有する投資信託(毎月分配型ファンド)の分配金で賄っているそう。

ただ、この分配金もかつては毎月40万円ほど出ていたそうですが、今は半分以下に。金融機関の人は、投資信託を入れ替えるよう勧めますが、頼子さんは「自分の理解できない商品は買いたくない」と、FPにどんな投資信託を買えばいいのか相談したかったのだと言います。

後編では、石井家の資産状況を見ながら、具体的なアドバイスを送っていきます。

●前編はこちら

「分配金の多い投資信託に乗り換えたい」と相談者は言うけれど…

ここで、現在の石井家の家計と資産状況を整理しておきます。

夫婦の月換算の年金収入:約28万円(年間 約340万円受給している)
夫婦の月間生活費:約25万円
拓郎さんの介護費用の月間自己負担分:約20万円
預貯金:約5000万円(うち拓郎さん名義が約4000万円)
​投資信託:約3000万円(すべて頼子さん名義)

全盛期は3000万円の投資信託から毎月40万円ほどの分配金を受け取っていたものの、現在は15万円程度に下がっているとのこと。

現在所有する投資信託の取引残高報告書や特定口座年間取引報告書を拝見したところ、「特別分配金」が記載されていました。投資信託の分配金は預貯金の利息と違い、運用益がなくても元本を削って支払うケースがあります。そのような元本を返すタイプの分配金を、「特別分配金」と呼びます。頼子さんが受け取っている分配金は、必ずしも運用益からではないというわけです。さらに運用も上手くいっていないようで、含み損も抱えています。つまり、分配金が減るだけでなく、実は資産も少しずつ減っていたのです。

数十万円の分配金を受け取り続けてきた頼子さんは、いい投資信託にさえ出合えば、またかつてのような分配金を受け取れると思っているようでした。「できるだけ分配金を多く受け取れる投資信託に乗り換えたい」と言います。私にも分配金が多く出るおすすめの投資信託はないかと尋ねたかったようです。

しかし、不確実な分配金をアテにした生活設計こそ問題なのではないでしょうか。