日本の規制は海外とのROE格差を拡大させる懸念も

企業・株主重視からの修正の動きは日本においても無関係ではない。岸田首相は2021年12月の衆議院予算委員会で自社株買い規制の可能性について言及。政府が何らかの指針を示すガイドラインを策定する必要があるのではないかと発言した。

さらに2022年1月の施政方針演説にて岸田首相は、世界中で見られる格差是正といった資本主義の変革を「新しい資本主義」で牽引していくと表明。自社株買い規制についての発言も、バイデン大統領の課税案を意識したものと見られる。

日本では大胆な金融緩和や法人減税に代表される「アベノミクス」が記憶に新しい。同政策は円安を誘導して輸出企業を中心に株高を演出したものの、実質賃金の低下など格差拡大の問題が改善されていないとの指摘も多かった。

「アベノミクス」から転換し、分厚い中間層の再構築を図る岸田首相の「新しい資本主義」は、米国の政策転換に通じる点もある。

しかし「失われた30年」という言葉に代表されるように、長年低成長に甘んじてきた日本での自社株買いの規制には疑問の声もある。例えば、昨年から日本と海外におけるROE(自己資本利益率)の格差が取り沙汰されている。

TOPIX(東証株価指数)と、世界の主要先進国の株式を対象とするMSCIワールドにおけるROEの差は2021年10〜12月期に-7.1(日本9%、先進国16%)にまで拡大した。これは2012年以来の低水準である。ROEが他国より低い状況は、日本企業の資本効率が劣後していることを示す。2021年からの日本における株価低迷は、ROEの格差も一因と見られている。

米国の成長産業を例にすると、利益を出して得たキャッシュを事業への再投資に回し、それがさらなる利益につながるという好循環が生まれている。一方で日本においては、稼いだキャッシュを再投資に回さず内部留保に回す企業も数多い。背景として、日本国内においては有望な投資先がなかなか見つからないことが要因だとする見方がある。