2022年3月29日、バイデン米大統領は政権の予算編成方針や財政見通しを示す、2023会計年度の予算教書を発表。その一部として、米国史上初となる企業の自社株買いに対する課税案を示した。2021年に可決された大型歳出法案に当初盛り込まれ、予算規模の縮小に伴い採用が見送られていたものだ。

日本においても2021年末、岸田首相が衆議院での答弁で自社株買い規制の可能性について言及。金融所得課税の強化などほかの検討事項と合わせ、株式市場の懸念材料になっている。日米両国で規制案が浮上している背景には何があるのか、自社株買いの概要とともに解説する。

自社株買いの狙いは一株あたり利益の向上

自社株買いとは、企業が過去に発行した株式を自らの資金で買い戻すことだ。買い戻した株式が消却(無効化)あるいは自社の保有分となることで、おもに次のようなメリットが期待できる。

(1)株主への利益還元
(2)配当金の負担軽減
(3)ストックオプションへの利用

1つ目は株価上昇につながることによるメリットだ。購入した自社株を消却すれば、発行済み株式数は減ることになる。すると機関投資家や証券アナリストが重要視している企業の財務指標、EPS(1株あたり利益)が向上。関連してROE(自己資本利益率)、PER(株価収益率)も改善され、企業の評価を高めて株価上昇につなげることができるのだ。

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さらに自社株買いは、企業から投資家への「自社の株式は割安」というメッセージともとれるうえ、企業が自社株式へ大量の買い注文を入れることになる。したがって、自社株買い実施前から、市場の期待により株価が上昇するケースが多い。

2つ目のメリットも企業の財務改善に貢献する。配当金は株式の保有数に応じて与えられる。株主の持ち分が少なくなれば、企業が支払う配当金も少なくて済むというわけだ。

3つ目のストックオプションとは、企業の従業員や取締役があらかじめ決められた価格で自社の株式を将来取得できる権利を指す。おもに業績連動の報酬制度として運用されている。

ストックオプションが行使されると、企業が保管していた株式が市場に流通するため、収益力の高さの指標であるEPSの低下が懸念される。そこで自社株買いをすることで、市場に流通する株式数を減らし、ストックオプションのデメリットを相殺することができる。

上記にあげたメリットを享受する以外にも、株式の保有比率を高めて敵対的買収の対策をするなど、経営の安定化を図る目的でも行われる。