サラリーマン生活に疲れて…妻に言わず希望退職に応募した理由
約10年ぶりに事務所に現れた佳代子さんは年齢よりずっと若く見え、以前と変わらない様子です。明るい性格のためか、相談内容にもかかわらず悲壮感はそれほどありません。
「ご無沙汰してます。おかげさまで上の子ども2人が社会人になってあと一息というところで、夫が会社の希望退職に応募してしまったんですよ」と佳代子さん。
俊明さんは以前から、子ども3人が独立したら定年を待たずに会社を辞めたいと言っていたのだそうです。
「以前は私の収入が不安定で扶養の範囲に収まる程度しかなかったのですが、最近は仕事が増えてきました。希望退職に応募したのは、私の収入をあてにした部分もあったかもしれません」
実は佳代子さんは行政書士として開業しています。お子さんが小さい頃に行政書士の資格を取り、見よう見まねで開業。最初はツテもなく、また子どもを育てながら営業するのは難しかったと言います。子どもの手が離れるとともに人脈を広げ、仕事の受注先を増やしていったそうです。
「そんな気楽なやり方ができたのも、夫の収入があったからなのですが……」
長女が大学に入学する頃には、佳代子さんの年収(額面)も300万円程度に。世帯の年収(額面)も1000万円を超えるようになりましたが、子ども3人を私立大学に通わせたので楽ではありません。
10年前、FP相談をして計画的に準備した教育資金も、3人の子どもが進学していくなかで、きれいに使ってしまったそうです。長女、次女と自宅外で私立大学に通わせていたため、今までも家計を赤字にしないだけで精一杯でした。蓄えはあまりなく、老後資金は長男の大学卒業後に一気に貯めようと考えていたのです。
一方、できれば早くサラリーマンを卒業したかった俊明さん。身も心も疲れきっていたようです。
往復4時間の通勤に加え、日々の業務も多忙を極め、700万円強の年収をもらっているとはいえ子ども3人の教育費で決して贅沢はできず、むしろ実感としては“カツカツ”なときもあったことでしょう。確かに俊明さんがある種の「燃え尽き症候群」のような境地になっても無理はないかもしれません。
そんなときに舞い込んだ希望退職の募集。長男はまだ大学生なので相談すれば佳代子さんに反対されるのは明らか。けれど、ここで退職しなければ割増退職金のチャンスは2度とないかもしれない。「今しかない」と誰にも相談せずに応募し、その結果、佳代子さんには事後承諾となってしまったようです。
こうして角田家は大黒柱だった俊明さんの収入なしでの生活設計を考えなくてはならなくなりました。
●“大黒柱”の収入なしで無事老後を迎えられる? 後編へ続く>>