成年後見制度は不向き。10年かけた相続税対策

父親の相続手続き後、加藤氏は祖母の相続対策へ動き出した。

祖母も父親と同程度の不動産を保有していた。何も対策をしないままでは、きっとまた1億円もの相続税が発生してしまう。さらに、生前父親から言われた言葉も脳裏に浮かんだそうだ。

「『土地は国からの借り物で、3代経てばなくなる』という父の言葉を思い出しました。当時、祖母も90歳近く、いつ何が起きてもおかしくない。また土地を手放す事態だけは避けたかったので、相続対策を始めました。最初に目をつけたのは成年後見制度でした。祖母が認知症などになって財産を動かせなくなってしまうことに備えようと考えました」

『成年後見制度』とは認知症などで適切な判断が難しくなった人の財産や権利を、第三者が守れるようにするための制度だ。

成年後見人等は財産管理や契約、手続きなどを代理できる。例えば、本人がよく分からないまま不利益な契約をしてしまったとしても、成年後見人等が代わりに解約できるというわけだ。

「ただ、調べてみて分かったのですが成年後見制度は相続対策には向いていないんですね。本人の財産を守るという大前提があるため、本人の財産を“圧縮”するような行為は認められていない。将来の相続に備えて贈与したり、更地のうえに物件を建てて評価額を下げたりすることはできないんです。

今なら信託制度を利用して、将来判断能力が下がった場合、受託者に財産を処分してもらうという方法も考えられます。

当時はそのようなサービスもなかったので、祖母の相続税対策は10年近い時間をかけてじっくり進めることになりました。祖母名義で区分所有マンションを買ったり、空いている土地に祖母名義で長期ローンを組んだりして、財産の圧縮を図っていきました。

区分所有マンションは一つの土地を区分所有者全員で共有するため、各戸の土地の持分割合が少なくなり、時価よりも相続税評価が大幅に低くなる場合があります。そして融資を受けて購入すれば、その残債を負債として相続財産から差し引くことができるので、不動産を購入することで相続税の負担を軽くできるんです」

ほかにも、不動産管理についてのノウハウを学び、賃貸業の収益性向上にも努めて資産を作っていったという。10年かけた相続税対策と資産形成で、祖母の相続のときには土地を売却することなく乗り切ることができたそうだ。