販売会社の投信担当者が選ぶ優れた運用会社(ブランドインテグレーション評価)ゆうちょ銀行・郵便局の全国調査で2024年に総合的に最も高い評価を得たのは野村アセットマネジメントだった。第2位は運用力が評価されてセゾン投信になった。ゆうちょ銀行・郵便局が運用会社を評価する6つの軸(「運用力」「商品開発力・企画力」「営業担当者・研修担当者の質」「サポート力」「識別力」「ガバナンス」)の中で、もっとも重視しているのは「運用力」だ。それに次ぐのが「営業担当者・研修担当者の質」で、第3位以下が「サポート力」「商品開発力・企画力」「識別力」「ガバナンス」になっている。
野村アセットマネジメントは、「営業担当者・研修担当者の質」「サポート力」「ガバナンス」の3項目でトップの評価を得て、他を圧倒する支持を集めた。セゾン投信は「運用力」「識別力」の2項目でトップに評価された。第3位は三菱UFJアセットマネジメント、第4位に「商品開発力・企画力」で評価された日興アセットマネジメントが入った。
評価されるセゾン投信の「運用力」とは?
「運用力」で高く評価されたセゾン投信は、「セゾン・グローバルバランスファンド」と「セゾン資産形成の達人ファンド」をゆうちょ銀行に提供している。いずれもアクティブファンドながらNISA「つみたて投資枠」の対象ファンドだ。NISA「成長投資枠」を使って投資する際はネットの「ゆうちょダイレクト」から申し込みが必要になる。この2本のファンドは、安定的な運用成績を残していることが特徴だ。中でも、「セゾン・グローバルバランスファンド」は2025年1月末時点で1年のリターンが13.87%、3年(年率)12.29%、5年(年率)11.20%だが、これはゆうちょ銀行が取り扱う「バランス」に分類されるファンド38本の中で、1年のリターンではトップの運用成績、3年では第3位、5年では第3位という成績になる。この優れた運用実績がセゾン投信の運用力として評価されているのだろう。5年にわたってコンスタントに10%超のリターンを出している安定感が評価されているものと考えられる。
「運用力」で第2位に評価される野村アセットマネジメントは、ゆうちょ銀行に提供する「野村世界6資産分散投信(成長コース)」が「バランス」の分類で5年(年率)と3年(年率)で運用成績がトップ、1年で第2位となっている。同ファンドはNISA「成長投資枠」の対象ファンドだ。リスク・リターンの水準でみても「セゾン・グローバルバランスファンド」と同程度のリスクをとりながら、より高いリターンを残している。今回「運用力」で評価されている2社のバランスファンドは、ゆうちょ銀行が取り扱う「バランス」に分類されるファンドの中で、最も高いリスクをとるファンドになったが、そのリスクに見合って最も高いリターンをあげている。
ゆうちょ銀行・郵便局の売れ筋は、インデックスファンドとバランスファンドに二分されている。「運用力」が期待されるのは「バランス」に分類されるファンド群といえる。その「バランス」の中で最も高いリターンを継続的に出しているファンドを運用している2社が「運用力」で高く評価された。
「人材」と「サポート力」の源泉は?
「営業担当者・研修担当者の質」と「サポート力」で高く評価されているのは、両項目でトップの野村アセットマネジメントと、両項目で第2位の日興アセットマネジメントだ。
ゆうちょ銀行の取り扱いファンド123本を運用会社別にみると、トップは三菱UFJアセットマネジメントの26本だが、このうち12本はシンプルなインデックスファンドになっている。これに次いで多くのファンドが採用されているのが野村アセットマネジメントの23本になる。その中心はバランス型ファンドとターゲットイヤー型のファンドになる。野村アセットマネジメントがゆうちょ銀行・郵便局でサポートに力を入れているのは、それだけ多くのファンドが採用され、長期に運用を継続してもらうことによって成果が得られるファンドが中心なので、自然とゆうちょ銀行・郵便局に対するサポートにも力が入っているのだと考えられる。
日興アセットマネジメントは10本のファンドが採用され、この本数は14本のアセットマネジメントOneに次ぐ4番目に多い本数で、大和アセットマネジメントの10本と同数だ。人材の力に加えて「サポート力」で高く評価されるのは、やはり多くの商品を採用されている運用会社になっている。日興アセットマネジメントは対面販売商品は2本だが、当時から現在に至る手厚いフォローも評価につながっている可能性もある。この中で、2本のファンドしか採用されていないセゾン投信が「営業担当者・研修担当者の質」で第3位と「サポート力」で第4位に評価されている点は特筆すべきだろう。
「商品力」で幅広い投資家ニーズに応える
「商品開発力・企画力」では日興アセットマネジメントがトップになった。第2位はアセットマネジメントOne、第3位は大和アセットマネジメントだった。
日興アセットマネジメントは「スマート・ファイブ」や「全世界超分散株式ファンド」といった他の運用会社にない商品をゆうちょ銀行に提供している。「スマート・ファイブ」は、債券や株式、リート(不動産投信)、ゴールドに投資してインカム収益の確保と中長期的な値上がり益の獲得をめざすファンドだ。インカム収益を獲得するために株式やリートを活用し、中長期の値上がり益の獲得を目指すためにインカム収益のないゴールドを組み入れているのがユニークだ。しかも、そのゴールドの価格はここ数年はずっと上昇し、過去最高値を更新している。また、「全世界超分散株式ファンド」は世界の上場株式約5万5000銘柄(重複上場含む)のうち約1万4000銘柄に幅広く分散投資するファンドだ。従来のインデックスファンドは新興国を含む全世界株式ファンドでさえ大型株を中心に2600銘柄程度に投資しているに過ぎなかった。1万銘柄を超える組み入れ銘柄数は異常に数が多い。このことによって、従来のインデックスファンドでは投資ができていなかった中小型株にも投資することが可能になっている。
アセットマネジメントOneは、基準価額の変動リスクを年率2%程度に抑えながら安定的な運用をめざす「リスク抑制世界8資産バランスファンド」や中長期的な目標リターン年率4%をめざす「Oneターゲットリターン・ファンド(4%コース)」、「世界株配当収益追求ファンド(価格変動抑制型)」などリスクを抑えた工夫のあるファンドを提供している。
日興アセットマネジメントやアセットマネジメントOneが工夫を凝らしたファンドが売れ筋となって大きな資金を集めているというわけではない。ゆうちょ銀行・郵便局の売れ筋は、オーソドックスなバランスファンドかインデックスファンドなのだが、さまざまな工夫のあるファンドがラインナップにあることによって投資を始めたばかりの人から、次のステップに進もうと考えている投資家まで多くの人々のニーズに応えることができるようになっている。「商品開発力・企画力」で高く評価されている運用会社は、総合順位でも上位にランクされている。
なお、「識別力」ではセゾン投信がトップ。「ガバナンス」では野村アセットマネジメントがトップだった。
全国津々浦々のネットワークの魅力
ゆうちょ銀行・郵便局の評価する運用会社ランキングで特徴的なのは、SBIアセットマネジメントやなかのアセットマネジメント、楽天投信投資顧問など、ゆうちょ銀行の取り扱いファンドに商品が入っていない運用会社が個々の評価項目でトップ10の中に食い込んできていることだ。ゆうちょ銀行が採用しているファンドの運用会社は20社になる。商品が採用されていれば、運用報告会や販売研修などでゆうちょ銀行や郵便局に担当者が訪れるなど何らかの接点を持つことがあるだろう。その20社だけでトップ10を争うということが通常に考えられる姿だが、ファンドを採用されてもいないのにゆうちょ銀行や郵便局の投信担当者の意識に残るというのは相当のインパクトを残しているということだろう。
同じように、キャピタル・インターナショナル、J.P.モルガン・アセット・マネジメント、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントなどの外資系運用会社は、ゆうちょ銀行に1本しかファンドが採用されていないにもかかわらず、各調査項目でトップ10に食い込んだり、キャピタル・インターナショナルは総合評価でも第8位にランクインしている。これら外資系の運用会社もゆうちょ銀行・郵便局に積極的に情報発信や研修等のサポートに注力しているのだろうことがうかがえる。
ゆうちょ銀行・郵便局は、全国津々浦々に拠点網を張り巡らせる国内で唯一無二の存在だ。メガバンクや大手証券は全国をカバーしているとはいえ、東名阪の3大都市圏以外では県庁所在地に支店があるくらいで、ゆうちょ銀行・郵便局のネットワークには及ばない。しかも、オーソドックスに長期・分散・積立投資を販売姿勢で徹底している。これは、ゆうちょ銀行の売れ筋ファンドがインデックスファンドとバランスファンドで占められていることからもよくわかる。オーソドックスな長期・分散・積立投資の投資家にファンドを購入してもらうことこそが、運用会社にとってはファンドの長期成長につながる大きな魅力を感じるだろう。引き続き、運用会社はゆうちょ銀行・郵便局での評価をあげようと激しい競争が行われ続けると考えられる。