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大臣を務めて 1:45~ /こども政策と金融政策との兼任 4:05~/資産運用立国実現に向けて 6:10~/企業年金の改革を決めた背景 16:20~/企業年金の規模についての考え 19:20~/政府が考える企業年金の投資先 21:20~/企業年金の「情報の見える化」24:20~/スチュワードシップ活動の実現 27:40~/24年度与党税制改正大綱28:50~/台湾総統選挙 37:00~
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大臣を務めて
水野氏
小倉先生、まず、この1年1ヶ月の間に大臣を務められて、どのようなご感想をお持ちになったかぜひお聞かせください。
小倉氏
ありがとうございます。「永田町のキーパーソンに聴く」をご視聴の皆さん、こんにちは。小倉將信です。1年1ヶ月、ちょうど400日間、大臣の仕事をしてまいりました。子ども政策の担当大臣として、子ども家庭庁の発足に立ち会わせていただき、少子化対策の担当大臣として、岸田総理が訴える次元の異なる少子化対策の取りまとめをさせていただきました。
また、男女共同参画・女性活躍の担当大臣として、今国会(2023年の通常国会)でDV防止法の改正法案を実現するとともに、経済分野における女性活躍ということで、東証プライム上場企業における2030年までに30%以上女性役員を確保するという規則改正も手掛けさせていただきました。また、孤独・孤立の対策担当大臣として、世界で初めてとなる孤独・孤立対策推進法案を成立させていただきましたし、共生社会担当大臣としては議員立法ではありますけれども、LGBT理解増進法を出していただいたのを受けて、初めての関係省庁連絡会議を開催させていただきました。
400日間ではありましたけれども、非常に貴重な経験をさせていただきましたし、とりわけ異次元の少子化対策を具体化した子ども未来戦略方針というのを23年の6月に作らせていただきましたが、この未来戦略方針は、まずは3年間で子ども予算を3.6兆円増やしていくという非常に大規模かつ広範囲の政策でございます。大臣のときに取り組んできた政策を、今度は自民党の子ども政策の責任者として党側から後押しをする役割を担っております。まさにわが国の国家的な課題である少子化対策がしっかりと効果を上げられるように頑張りたいと思います。
こども政策と金融政策との兼任
水野氏
ありがとうございます。小倉先生といえば、金融業界に精通された先生ということで、ずっとこれまでいらっしゃったと思うんですが、今度は子ども政策ということで本当に仕事の幅が非常に広がったという感じですけれども、先生としてもこれからも子ども政策と金融行政という形で進まれますか。
小倉氏
おっしゃるように非常に視野が広がったと思いますし、政策の幅も広げさせていただいたと思います。これまで金融とかデジタルとか成長戦略、税、財政。こういったどちらかというと企業寄りで、かつマクロの政策、どうやって経済社会のパイを拡大させていくかという政策が中心でしたけれども、大臣として手がけたのは少子化対策というマクロな政策課題もありましたけれども、例えば、児童虐待とか貧困家庭、障害児診断、いじめ、不登校といった困難に遭遇する子どもたちを手厚く支援することですとか、DVに遭う、男女問わずでありますけれども特に女性をいかに支援して、自立支援をしていくかですとか、孤独、孤立は性別、年齢問わず発生する非常に国家的な課題、「国民病」になっていますので、そういった声なき声を拾ってどうやって支援をしていくか。大臣のときにやった仕事はどちらかというと個人の話で、そして困難に遭遇する人を助ける話で、ミクロの話ということで、まさに党にいたときにやってきたことと、大臣時代にやってきたところが180度違うアングルから仕事をしているな、という実感をいだきました。
ただ、やっぱり政治としてこれを進めていくためには、プロビジネスも重要ですけれども、やはり社会政策の視点を合わせ持たなければ、国民の皆さんに説得力をもって政策を訴えかけることはできないので、そういう意味では大臣を終えた後も、大臣の前からやってきた金融を中心とする仕事に加えて、大臣のときにやった仕事も合わせ持ってやりながら、しっかり国民の皆さんのお役に立てる政治家たりえたいと思います。
資産運用立国実現に向けて
水野氏
まさに鳥の目、虫の目。どちらもしっかりとお持ちになったという感じがいたします。では、続きまして「資産運用立国実現プラン」。これが2023年12月13日に公表されたわけでございます。私の方から簡単にこのプランの概要をご説明させていただきたいと思いますけれども、まず資産所得倍増プランであるとか、あるいはコーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクションプログラム。こういったものは既に公表されてきておりまして、インベストメント・チェーンで言えば、販売会社の方の話、あるいは企業の話、あるいは家計の話。こういったものについては、いろいろな施策がこれまで捉えられてきた中にあって、一つミッシングパーツとしてあったのが、まさに資産運用業アセットオーナーのところであったという認識から、このたびこの資産運用立国実現プランというのが入ったのではないかと思っております。
それで、まさに目指すのは成長と分配の好循環の実現ということかと思うんですけれども、具体的にプランの項目、これは5つあるということでご紹介したいんですけれども、まず、資産運用業の改革、アセットオーナーシップの改革、成長資金の供給と運用対象の多様化、スチュワードシップ活動の実質化、対外情報発信コミュニケーションの強化といったものが大項目として挙がっている。
簡単に各項目の概要を申し上げますと、資産運用業の改革におきましては、プロダクト・ガバナンス原則の話であるとか、ビジネス慣行、あるいは参入障壁の是正、資産運用特区、それから日本版EMPの策定といったものが入ってきております。また、アセットオーナーシップの改革におきましては、アセットオーナープリンシプルを策定しましょうとか、企業年金改革、特に情報の見える化を進めていきましょうという話が入っておりますし、成長資金の供給と運用対象の多様化におきましてはスタートアップ企業への資金供給の話、あるいはオルタナティブ投資、サステナブル投資の活用ということ、それからスチュワードシップ活動の実質化は、エンゲージメントの取り組み促進、あるいは対外情報発信におきましては資産運用フォーラムといったものを立ち上げていこうという話が出ております。
こういった項目につきましてどのようなポイントを特に政府あるいは与党として、これから力強く進めていきたいのか、あるいはこれに限らず資産運用立国を実現するためにどのようなことが求められているのか、ぜひ先生のご見解をお聞かせいただきたいと思います。
小倉氏
まずは強調したい点は、この資産運用立国を何のためにやるかということです。我々の最終的な目的は金融業を発展させることそれ自体じゃなくて、金融業の発展を通じて国民一人一人の資産所得を増やしていくということであります。ご案内のとおり、この20年ぐらい見た場合に国民の金融資産というのは足元で2000兆円ぐらいありますけれども、我が国の場合は20年間で1.5倍ぐらい増えてはいるんですけれども、アメリカは7倍ぐらいなんですね。経済規模で言えば4倍弱ぐらいですので、経済規模で見てもアメリカの国民の金融資産の方が非常に多いと。経年で見ると先ほど1.5倍ぐらいに20年間で増えたと話しましたけれども、アメリカはもう3倍以上増えていますから、やっぱり国民の金融資産の規模感が日米で差があるだけではなくて、経年で見てもその差が開いている、というのが我が国の現状であります。
ですので、この資産運用立国の実現を通じて、国民の金融資産をしっかり増やしていくと、それでもって給与所得だけじゃなくて、資産所得でしっかり、老後も国民の皆さんが安心をして暮らしていけるような状況を作っていく、というのが我々の最終目標だということをまず強調させていただきたいと思います。
続きまして今回の資産運用立国というのは、非常に順序よくやれているな、というふうに思っているんです。大きな政策は、お金の循環の中でぐるぐる回していくことによってお金を増やしていく。さっき言ったように、国民の金融資産を増やし、ひいてはそれぞれの資産所得を向上させていくということでありますけれども、そのために何をやるか当初からやってきたのは、企業価値を徹底的に高めるような企業経営をしてもらうということです。
お話がありましたように、コーポレートガバナンス改革というのを、やはり我が国でこの10年近くの間、徹底をさせていただきました。日本企業はどちらかというと利益率が低い。それで売上を伸ばすのではなくて、経費を節減してまさにコストカット経済の中で薄い利益を確保してきた。そういった経営を続けてきたわけでありますけれども、きちんとマークアップして付加価値をつけて、そのための投資を行うことによって企業価値を高めていくような、そういう経営方針、経営戦略を立てた上で経営を実践してもらいたいということです。これについてはこの前とある金融関係者にお話を伺いましたけれども、東証が打ち出したPBR1倍以上目標も相まって、非常に海外投資家の日本に対する見方が変わったと。昔の日本企業というのは、企業開示も正直言って、あまり信用できない(ところがありました)ので、企業開示も充実をさせました。コーポレートガバナンスを徹底した結果、日本企業は海外のシビアな目線で見ても投資に耐え得るような、そういう企業になったという印象を海外の投資家に持ってもらえるようになったという話がございました。
そういう意味では地味な取り組みですけれども、まず企業価値を高めて投資対象たり得る企業になってもらうような取り組みというのは実を結びつつあるのかなと思います。
かたや、証券会社サイドで言えば、先ほど顧客本位の業務運営の話が出ましたが、やはりこれまでのようなセルサイドの販売会社の手数料を増やしていくという考え方から脱却をしてもらって、中長期に投資してもらうような、そういう販売会社のスタンスを徹底させたということで、そこも大きく変わったと思います。
以前、老後2000万円問題というのがあって、特に若い世代からしてみれば、今のうちからきちんと資産運用していくことの重要性というのは認識され出していると思います。
その動きを加速化させたのは昨年決定したNISAの抜本拡充でありまして、その意味では国民の金融資産がしっかり販売会社を通じてマーケットに流れて、マーケットでもその投資に耐えるような企業経営をしてもらうという、そういう流れができつつあります。
ミッシングリンクはどこかというと、やっぱり資産運用業の高度化であり、NISAによって流れた金融資産をより高度に資産運用してもらうことによって、さらに循環の中でお金が回っていくたびに増えていくような、そういう流れを作っていくということだと思っておりますし、まさにこのミッシングリンクを埋める取り組みというのが今回の資産運用立国だと思います。
個々の施策について、もしさらに質問があればお答えしたいと思います。
企業年金の改革を決めた背景
水野氏
なるほど、資産運用業のみならず、今回の特徴としてはアセットオーナー、いわゆる企業年金であるとか、最近でいうと公的年金、GPIFさんなんかもターゲットになっていると思うんですけれども、従来はなかなか公的年金のところ、あるいは企業年金のところというのはあまり触れてこられなかったというのは実態かと思いますけれども、なぜここを改革しなければならないと思われたのか、何か背景はあるんでしょうか。
小倉氏
まず資産運用業のところに若干、付言をさせていただきたいと思います。この6~7年ぐらいですかね。金融庁のデータを見ても、我が国の資産運用業者の数というのはほとんど増えていません。そういう意味では、別に日本の資産運用業者が力不足と言っているわけではないんですけれども、国内外から資産運用業者がたくさん集まることによって切磋琢磨してもらって、より高度な資産運用ができる状況を作りたいと思っています。今回の資産運用立国で何をしようとしているかというと、やはり新規の資産運用業者が国外から参入した場合に、どうしてもフルスペックで用意するのは難しいと思います。なので、業務ごとに幅広くアウトソーシングをできるようにすることによって、軽装で我が国に参入してもらえるような仕組み作りはしたいと思っておりますし、いろいろ日本語でやらなければいけないとか、さまざまな国内独自のルールがあるとか、そういった参入障壁に関しては英語でしっかりと参入できるような制度作りというのは、金融庁にはやっていただきたいと思っています。
ご質問いただいたアセットオーナーの話ですが、今回の資産運用立国のポイントの一つだと思っています。当然、アセットオーナー、お金を持っている側ですね。GPIFとか大学ファンドとかもそうです。企業年金基金もそうです。個人というよりも、そういった人たちの方がお金を持っているわけで、そのアセットオーナーがきちんとした運用事業者に資産を委託して高度な運用をお願いしない限りは、どんなに運用事業者がしっかりしても委託側の意識が変わらない限りは、高度な資産運用が実現できないというのが私どもの考え方であります。
重要なのは企業年金だと思っています。なぜ今かというご質問ですが、私は5年以上前から問題意識を持っていて、例えば国連の責任投資原則に参加している企業年金基金は、昔は1社しかなかったんですよね。なぜかというと、企業年金基金のマネージャーは、(企業側の)お話を聞くにつれ、どちらかというと企業の総務部や人事部で活躍をされた方が上に行くポストとして用意をされているということであります。企業年金基金の責任者といっても、金融の知識や経験がある人はほとんどいないわけです。そういったなかで責任者としてちゃんとした運用事業者に預けて、より期待リターンを高めていくということをお願いしても、土台無理な話でもございますので、企業年金基金のマネージャーをどうするか、それに対して成績も開示してどれくらいパフォーマンスを上げるかを見える化をしていかないと、企業年金基金側のきちんとした運用しようという流れは変えられないと思います。
これまでデフレ下では予定利率もどんどん下がっていきますので、保守的な運用をしていても予定利率を超えることができたと思いますが、ここから先はインフレになっていくことを考えると、予定利率もこれまでのように下がり続けるのではなく、むしろ上がってくると思うんですよ。上がってくる予定利率を上回るためにはある程度アクティブな運用をしないと、それを満たすことができません。今の金融環境の変化を捉えましても、企業年金の改革というのは非常に重要なポイントだと思っています。
企業年金の規模についての考え
水野氏
なるほど、ただ企業年金の規模の話をしますと、100億円以下ぐらいのところがほとんどの状況になっていて、そういう規模の小さいところに運用の高度化というのをどこまで求めればいいのかという話、あるいはまた企業側にとってみればDBの場合ですと、そこで例えばうまく運用がいかなかったら企業側から補填しなければいけないということになっていて、なかなかそこであまり大きなリスクを取ってもらってもね、という気持ちもあるように聞いております。ですから、少なくとも規模という意味においては今金融庁の方でも合同運用とかそういう話も出て、やはり規模を大きくしていく。あるいはプロフェッショナルに任せるなら任せて合同運用していく。そういうふうな動きも必要ではないか、という議論が始まっているんですけれども、先生としてご見解はありますか。
小倉氏
おっしゃるように、もちろん合同運用は重要だと思います。小規模なところは自前で全部やるのは無理ですから合同運用していって、その中でスケールメリットを働かせると同時に、その場で専門家を集めて高度な運用をしてもらうという。それは一つありだと思いますし、DBに関して言えば、予定利率が低い局面はいわばローリスク・ローリターンでも良かったのかもしれないけれども、やはりこれまでのようにもう低利率でいいという時代は終焉を迎えるだろうと思いますので、予定利率が上がってきた時は、やはりある程度リスクをとってリターンを上げていくという取組みが必要ですから、まさにこれからは低い利率でもいいから保守的な運用を、というふうにはならないんじゃないかなと思います。
政府が考える企業年金の投資先
水野氏
あと、企業年金などを使ってスタートアップ企業への投資とサステナブル投資といったこともやっていただこうかというお気持ちも政府の中にあるように思いますが、それは正しくはないですか。
小倉氏
正しいと思いますが、あくまでも考えなければいけないのは、それは「政策的にここに出資をしてほしい」ではなくて、やはり企業年金であれば、年金の受益者のためにどういう投資が望ましいかということを起点にしてスタートアップとかオルタナ、サステナブル投資は考えていかねばならないと思います。
ただ我が国の場合は、やはりオルタナティブ投資の投資先が少ないという問題点がかねてより言われていて、対象が少ないし、マーケットも小さいので、ポートフォリオを組んでバランスよく投資しようとしても、どうしてもオルタナに投資しづらいという話がございました。そういう意味では、ちゃんとした投資先たりえるようにオルタナの市場をきちんと拡大させていかなければならないですし、スタートアップもアメリカに比べれば何十分の1のレベルです。やはり本当は国内のスタートアップにも投資したいけれども、投資対象が少なすぎて海外のスタートアップに投資しているというアセットオーナーも多いと思うんですよ。そういうことをなくすために、スタートアップの企業に対する資金支援ができるようなチャネルは増やさなければいけないと思いますが、ただアセットオーナーのことを考えれば、別に政府としてスタートアップ支援は重要ですけれども、政府の大目的のためにアセットオーナーを使うという気持ちではないことは、ご安心いただければと思います。
水野氏
大変よくわかりました。そういう意味では、参入障壁の是正ということで海外の優れた運用者を日本に呼び込もうという資産運用特区もそうかもしれませんけれども、そういう動きもしつつ、あるいはまたキャピタルフライトのことを考えれば、当然、日本国内でのスタートアップ企業への投資を進めてほしい、あるいはまたオルタナティブ投資を拡充してほしい。そういうふうなこともやはり気持ちとしてはあるわけですね。
小倉氏
もちろんです。やはり、国内外でバランスよく投資しなければいけないですし、国内のアセットクラスもバランスよくしなければいけないなかで、残念ながらスタートアップとかオルタナとかサステナブル投資とかのマーケットが小さいわけですから、そこをきちんと規模を拡充していけば、自然とポートフォリオを組んでバランスよく投資した結果、そういったマーケットにお金が流れていくようになると思います。
企業年金の「情報の見える化」
水野氏
なるほど、あともう一点だけ、企業年金のところで情報の見える化というものも進めていこうと。要は今までは結構、「隣の企業年金さんがどれくらいの予定利率で、どのような運用成績を上げてきたのか」というのは見えてこなかったと。そこはもっとオープンにして、ちゃんと比較できるようにしていけば切磋琢磨していく、というふうなことが狙えるのではないかというところかと思います。確かに、ここらのところというのは本当にブラックボックスになっていたところかと思うんですけど、これはぜひ進めていただきたいと思っているんですが、先生としてはどうですか。
小倉氏
そうですね。非常に重要な話だと思います。何度も言うように保守的な運用が年金受益者のためになるのかというとそうではなくて、やっぱりリスクをコントロールしながらもより高いリターンを目指すような運用こそが年金の受益者の老後の安心につながるわけで、そこら辺はリスクをひたすら避けて、低利率で我慢すればそれはどこにしわ寄せがいくかというと、年金の受益者に最終的にはなるわけですから、彼らのことを考えればきちんと見える化をして、その年金ごとに最適な運用をしていくために重要な取り組みだと思っています。
今回、自民党の資産運用立国PTというのが立ち上がりまして、越智(隆雄)先生が座長で、私が事務局長で、幹事長が木原(誠二)先生ということで、東京の金融族が担当させていただきました。やはり、意識した点がどうしても年金の話になると厚労省の年金局なんですね。一方で、年金はアセットオーナーとして金融市場においてすごくインパクトを持つわけでありますが、役所としては縦割りになるわけですよ。今回の資産運用立国PTで、金融庁と厚労省の縦割りをなくしていくという大きな役割を果たすことができたんじゃないかと思っています。そのうちの一つが企業年金改革、情報の見える化でありまして、やはり我々との議論の中で期限を決めて見える化について結論を得るというような方向にもなりましたし、もう一つの日本版EMP、エマージングマネージャープログラムに関しては、重要なのはシードマネーの出し手でありまして、やはり、ここを出す人がいないと、このEMPというのは絵に描いた餅に終わってしまいます。そこで我々はやはりGPIFも一つの選択肢として考えるべきだと思っています。GPIFはもう鯨ですから、巨大な象ですから。だから、その巨大な象のほんの一部でも、このEMPにとってはものすごく大きなお金になり得るわけですよ。だから、そこも厚労省には汗をかいていただいて、このEMPのシードマネーの出し手の一人として、GPIFを選択肢に入れるということを、今回、自民党の資産運用立国PTでお願いをさせていただいたところです。
そういった、厚労省の年金局に頑張っていただくというのが、今回、自民党の金融調査会の資産運用立国PTのポイントの一つだったと振り返って感じています。
スチュワードシップ活動の実現
水野氏
アセットオーナーにしてみれば、あと、スチュワードシップ活動もちゃんと実質化してくださいよというふうに言われていて、ここも結構弱かった点かと個人的には思うんですけれども、やはり、そういう運用力を高めていく中で、こういうふうなエンゲージメントもしっかりやってもらうよ、ということになるんでしょうか。
小倉氏
そうですね。スチュワードシップ関係はスチュワードシップ・コードをだいぶ前に作りました。ただ、実質化というのもかねてよりずっと言われてきて、スチュワードシップ・コードは別にそんな多くのことを書いているわけではありません。そのビジョンに基づいていかにやり取りをしてもらうかということが重要で、重要なのはコードに書いてあることを、いかに咀嚼(そしゃく)をして、そのエンゲージメント活動に活かしてもらうかということでありますので、そこはこれまでも実質化ということを金融庁は口を酸っぱくして言ってまいりましたけれども、この資産運用立国の枠組みの中でも重要なポイントですので、しっかり実質化に向けてさらに取り組みを促進してもらう必要があるということだろうと思っています。
24年度与党税制改正大綱
水野氏
つい先日(23年12月14日)公表されました与党の税制改正大綱についてお話をお伺いしたいと思っております。
まず私の方からポイントをまとめてきましたので、ご紹介したいと思うんですけれども、キーワードとしてはやはり、賃上げ、投資促進、子育て支援、この3つかなと個人的に思っております。その中で、賃上げ促進税制としては大企業は7%の賃上げで増加分の25%を全額控除するという賃上げ税制のところですね。それから赤字の中小企業にも配慮して5年間の繰り越し可能というふうにしたとか、あるいは定額減税に関していうと、これは有名な話ですけれども、2024年6月、これは続く可能性もあるとも聞いていますが、所得税、住民税から1人当たり4万円を減税しましょうという話。ただし年収2000万円超は対象外としましょうというふうに一応キャップはつけたと。子育て支援に関しましては、住宅購入時の減税措置を継続していきましょうという話とか、児童手当の高校生までの拡充に伴い扶養控除を縮小していきましょうという話が今出ている。具体的な金額等はこれからと聞いておりますけれども。
あるいは国内投資の喚起ということにおきまして、EVとか半導体の生産量に応じて10年間の税額を控除しましょうとか。それからイノベーションボックス税制。これは、特許などの知的財産の売却などで得た所得の一部を控除していきましょうという話。これは結構画期的かな、と思っております。
それからここはちょっと別の形になるんですけれども、外形標準課税で税逃れを防止させるために、資本金と資本余剰金の合計が10億円超の企業も対象化します。資本金を1億円未満にするというふうなことで税を逃れてきたようなところもあるので、資本余剰金も加えたということになろうかと思います。
そういったところで、結構私は個人的にはメリハリのある改正になったのかな、と思っているんですけれども、先生のご見解をぜひ教えていただければ。
小倉氏
はい。税制の関係でいうと、2021年は(自民)税調の最年少のインナーとして、税制改正大綱の書き手を務めさせていただきました。そこから、大臣で一旦政府に離れて、また23年、税調の幹事として、どっぷり税制改正の議論にまた再び参加をさせていただきました。
今回のポイントは、やはり物価高とデフレの克服、これを実現できるための税制だと思っています。所得税の定額減税も、非常に誤解が多くて、物価高の克服であれば、「なんで給付金ですぐやらないんだ」という話があって、24年の夏まで待てないという話が多くあったわけですけれども、我々の政策の意図としてはもちろん、住民税非課税プラスアルファの非常に生活が厳しい世帯に対しては7万円給付ですぐに家計を後押しをしていくことはやりたいと思っています。
ただ重要なのはこの物価高に直面をしながらも、デフレ脱却のモメンタムをしっかり維持していくことなんですね。我が国は30年デフレが続いてきたので、やはり、人々の考えとしてすぐデフレに戻ってしまいがちなんですよ。足元で物価は2%を超えている水準でありますし、来年もしばらく続くと思います。
ただ足元を見ると、輸入物価も少し落ち着き始めていて、おそらくではありますけれども、25年くらいからは2%切るくらいになってしまうだろうとなったときに、またこれまでの日本人の考え方だと、値段は上げられないと。賃金も上がっていかないと。では、値段を下げるしかないよね。値段を下げると賃金も抑えざるを得ない感じで、すぐに30年続いてきたわけですから、デフレ状態に戻ってしまう。デフレ状態が経済を長年苦しめてきたのは皆さんご承知の通りだと思います。なので、我々の眼目としては、いかに物価高に対応しつつも、デフレに戻さないような状況を作るかなんです。
そういう意味では23年もだいぶ賃上げは実現しましたけれども、24年もまた企業には頑張ってもらって、賃上げを実現すると同時に働いている世代には、所得税、住民税の減税をすることによって、さらに可処分所得を増やすことで物価高になったとしても消費が落ち込まずにしっかりデフレに陥らないような、そういう経済を作っていくというのが、今回の税制の大きなポイントの一つだと思っています。
賃上げ促進税制もその通りでありまして、これまでは2%、3%、4%あたりを標準にしていましたけれども、実質賃金をプラスにしていくためにはまだまだ不足をしているわけでありまして、やはり5%、7%とさらに賃上げをしていただけるような企業に対する上乗せの措置を今回導入をさせていただきました。あとは実は中堅企業というのも我が国で重要なんですね。従業員が2000名以下の企業というイメージでいいと思いますけれども、こういった2000名以下の中堅企業が実は国内でしっかり雇用も確保し、従業員の賃金も上げてくださっていると。ただやはり大企業と中小企業のはざまでこの中堅企業に対する支援が手薄だったのも事実です。今回の補正予算で予算措置も中堅企業用に用意させていただきましたが、今回の賃上げ税制でも中堅企業を対象にした税制を用意させていたきました。この中堅企業にも的を絞っているというのもポイントでありますし、やはり赤字の中小企業には賃上げ税制を使っていただけないので、新たな繰り越しの制度を作らせていただいて、赤字の中小企業でも黒字になったときに償却をできるような、そういう制度を導入することによってそういった企業も賃上げをできるようなそういう税制にさせていただいたということであります。
もちろん、稼げる産業、稼げる企業も増やさなければいけないので、戦略物資生産基盤税制ということで、蓄電池とか半導体、グリーンスティールとかグリーンケミカル、SAFといった戦略物資の設備投資をしてくださる企業に対しては、初期投資だけではなくて生産量に比例した、販売量に比例したランニングコストの部分も税制優遇するような思い切った税制措置を今回新たに導入させていただきますし、ご紹介をいただいた、世界で3番目のイノベーションボックス税制というものを24年度からスタートさせていただきます。
そういった、広くあまねく多くの企業に賃上げに取り組んでいただくと同時に、やっぱり我が国の経済を牽引してくれそうな戦略物資なり、知財なりを投資してくれそうな企業をさらに融合することによって、経済全体を牽引することで、広く裾野を拡大して賃金を増やしていくということも、もう片方の手でやらせていただくことによって、全体として日本人の賃上げを実現していくというのが、それによって物価高とデフレを克服していくというのが、今回の税制の目玉だと思っています。
水野氏
なるほど物価高とデフレの克服、そういうことですね。大変よくわかりました。
台湾総統選挙
水野氏
それでは最後に24年のお話を少しさせていただくと、24年は選挙の年というふうによく言われます。特に日本にとって非常に重要な国の選挙が目白押しということで、1月の台湾、それから2月のインドネシア、3月ロシア、それからその後でインドとか、11月には米国、こういったところで重要な選挙が行われていきます。
私個人的に、先生もおそらく非常にご関心高いと思うんですが、やはり1月の台湾。この選挙が日本にとって非常にその結果が注目されるのかな、というふうに思っているんですけれども、先生としてやはりそこら辺のところ何かご見解はございますか。
小倉氏
はい。私も、自民党の青年局というのは台湾の窓口なんですね。日本と台湾が残念ながら国交断交をしたときに、党の青年局では台湾の窓口になれなくなってしまったので、当時の海部俊樹青年局長と、蔣介石さんの息子でいらっしゃる後の総統の蔣経国さんとの間で、それ以降の両国のやり取りは台湾の青年組織と自民党の青年局でやるということが決定いたしました。
なので、実は私が務めていた青年局長というのは我が国における台湾外交の責任者でありまして、それ以前も青年局の中で台湾担当をしましたので、今回、総統選に立候補されている3人の候補いずれもお会いして話をしたことがあります。
とりわけ民進党から出ている頼清徳さんはもう何度も会って、結構親しい仲であります。その頼清徳さんが蔡英文総統の後継者として、選挙結果はどうなるか分かりませんけれども、今のところは一番当選確率が高いと言われています。この民進党というのはどちらかというと国民党と比べると台湾独立寄りの政党でありまして、そうなると中国との関係が緊迫化をするのではないか、台湾海峡が緊張化するのではないかという懸念もあるのも事実です。ただ蔡英文さんも総統になったときに彼女自身の考え方はともかくとして、やはり総統になったらある程度対中外交も含めてかなり言いたいことも抑えてバランスをとって務められてきたと思います。頼清徳さんの発言とか行動を見ても、やはりかつてよりも中国を刺激するような言動が少なくなりましたし、非常に総統を見据えて現実的な行動をしていらっしゃると思いますので、私は1月の総統選の結果によらず、外交の世界なので正直言って何が起こるかわからないのも事実ですけれども、今のところの見立ては、総統選の結果で台湾海峡が大きく緊迫化するということはあまり考えられないのではないかと思っています。日本は台湾とも関係深いですし、いま中国との関係改善も続けているので、やっぱりそこで日本の果たす役割というのも結構あるんじゃないかなと思います。
水野氏
2024年は重要な年になりそうですね。本当に今日は長い間、先生ありがとうございました。またよろしくお願いします。